理化学研究所(理研),日本原子力研究開発機構らが参画するPHENIX実験国際共同研究グループは,米ブルックヘブン国立研究所(BNL)の「RHIC(リック)衝突型加速器」を使って,偏極陽子と金原子核の衝突反応により生成される中性子の飛び出す方向に,左側へ約15%の偏りがあることを発見した(ニュースリリース)。
陽子を含む全ての粒子には,地球の自転に似た「スピン」と呼ばれる,向きを表す性質がある。また,複数の粒子のスピンの向きを揃えた状態を「偏極」と呼ぶ。偏極陽子が原子核との衝突により中性子に姿を変える際,生成された中性子の飛び出す方向に“左右の偏り”が生じることを「左右非対称性」があるという。
2007年,理研の研究グループはRHICを使って偏極陽子と偏極していない陽子を衝突させた結果,生成された中性子が偏極陽子の進行方向に対して右側に約5%多く飛び出すことを発見した。この左右非対称性は,のちに「強い相互作用」の理論で説明された。
この理論では,陽子のスピンの向きが同じなら,衝突相手が陽子よりも大きい原子核でも,中性子生成の左右非対称性は衝突相手が陽子の場合と大きくは変わらないと予想されている。例えばビリヤードで,真上から見て反時計回りの回転を与えた突き玉を標的玉に当てると,突き玉は右側に弾かれる。
このとき,標的玉をより大きく重いボーリング玉に変えても,やはり突き玉は右側に弾かれると予想される。これは,弾かれる方向に影響するのは突き玉の回転方向と考えられるため。
そこで研究グループは,この予想を検証するためにRHICを使って衝突エネルギー200 GeV(ギガ電子ボルト)で,偏極陽子と,陽子より大きく重い粒子であるアルミニウムおよび金の原子核を衝突させる実験を世界で初めて行なった。その結果,アルミニウム原子核との衝突では,中性子生成に左右非対称性はほとんどみらなかったが,金原子核との衝突では,中性子が左側へ約15%より多く飛び出すことを発見した。
この結果は予想と全く逆となるもの。この結果には,陽子同士の衝突とは異なる要素,例えば原子核内の中性子の存在や原子核の大きさや形状など原子核に特有な特徴が影響していると考えられる。研究グループは特に「電磁相互作用(電磁気力)」に注目。電磁相互作用は,強い相互作用とは異なり,電場(あるいは磁場)から電荷が受ける力を光子が伝える。原子核は原子番号に比例して電荷を持つ陽子の数が多くなるため,原子核との衝突では,電磁相互作用を介した反応の確率が高くなるとしている。