京大ら,円偏光テラヘルツ波発生に成功

京都大学と筑波大学の研究グループは,高温超伝導体を用いた超伝導テラヘルツ光源デバイスから,最大99.7%の円偏光度をもつテラヘルツ波の発生に成功した(ニュースリリース)。

テラヘルツ波は,高速無線通信,空港でのセキュリティー検査,ガン部位の識別,封筒内の薬物検知,宇宙観測など幅広い分野への応用が実現・期待されている。

テラヘルツ波を連続して発振する光源として,高温超伝導体のナノ構造を利用したものが2007年に発明された。それ以降,この光源の実用化をめざし,精力的な研究が世界中で行なわれている。

円偏光テラヘルツ波は,超高密度移動体通信に必須なだけでなく,光学異性体の透過率が電界の回転方向によって異なるため,物質にダメージを与えることなくこれらを区別することができるので,医薬品の識別・組織の診断などに応用できる。また,コガネムシのように,回転方向により異なる反射率を持つ物体の識別にも有用となる。

しかし,これまで,単独で円偏光テラヘルツ波を連続して発振できるデバイスは得られておらず,これらの技術の実現への障害となっていた。

研究グループは,正方形の対角を切り取った形状の超伝導テラヘルツ光源を作製し,電磁波の電界が回転する円偏光特性をもつテラヘルツ波の放射に成功した。発生させたテラヘルツ波が特定の方向に偏った電界を持たないことを,テラヘルツ波の偏光測定から明らかにした。測定された発振周波数の0.4テラヘルツは,円偏光放射が予測される値と一致する。

さらに,通信および化学分析に重要な電界の回転方向についても,産業技術研究所のグループから先行して発表された理論計算との比較から提案した。

複雑な調整を必要とする従来のテラヘルツ光源と異なり,超伝導テラヘルツ光源は物質本来の結晶構造を基盤としたシンプルかつモノリシックな構造のため,耐久性・量産性に強みをもつ。

また,動作温度の上限は市販の極低温冷凍機で容易に到達できる80ケルビン(マイナス190℃)程度のため,ポータブル応用も提案されている。

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