中央大学,スイス ベルン大学,蘭ライデン大学,蘭デルフト工科大学と連携した国際共同研究グループは,湿度によってON/OFF動作する金属錯体をベースとした分子ダイオードを見出した(ニュースリリース)。
分子を積み上げるボトムアップ法によりシリコンデバイスに替わる分子ダイオードや分子トランジスターなど,ナノスケールで働く「分子エレクトロニクス」の研究が2000年代から本格化している。
現在ではこれら分子エレクトロニクスが,シリコンの微細加工で作製されるCPUやDRAMチップの限界を超える重要な要素技術として期待されており,最近では単一分子の伝導性を再現性よく測定する手法も確立されたことから,新規のエレクトロニクス材料研究は新たな段階を迎えている。
今回研究グループは,透明導電性電極ITO上に金属錯体を固定し,錯体の単一分子伝導を測定したところ,外部の湿度に応じて一方向に電流が流れる度合い(整流比)が従来の数値を3桁以上増加する現象を見出した。
さらに,この整流比変化は外部の湿度の高低に応じて可逆的に変化することも確認した。外部の湿度に感応する錯体分子は対称なルテニウム二核錯体であり,類似のルテニウム単核錯体では観察されなかった。
このスイッチング現象のメカニズムは,高湿度になると基板とチップの間のチップ側に水が集まり基板表面に固定された錯体の対イオン(PF6–)の分布が非対称になることに起因する。これに伴い対称であった錯体のエネルギー準位も非対称となることから,エネルギーギャップが生じ,電子が一方向に移動する(整流ダイオードになる)。
この接合部の二核錯体分子周辺に水が非対称に分布することで非対称性が生まれ整流性が生じる現象は,密度汎関数と非平衡グリーン関数法を用いたモデル計算から証明された。
今回,外部の湿度に応じて可逆的に整流比が変化する分子ダイオードが見出された成果は,分子レベルでの水分やアルコール検出などのセンサーの微小化に寄与でき,これまでにないデバイスの創製に繋がるものとしている。