小糸製作所は,東京工業大学の研究グループ,名古屋大学の研究グループと共同で,新しい「白色LED用赤色蛍光体 FOLP:Eu2+ (Fluorine Oxygen Ligand Phosphor)」の開発に成功した(ニュースリリース)。
従来白色LEDに用いられている赤色蛍光体は,窒化物系の化合物に発光元素をドープしたものが主流だった。それらにドープされた発光元素は,周囲の窒素イオンと強い共有結合性を示すことから,赤色のような長い波長(エネルギーの小さい)の発光を実現していた。
しかし,これらの蛍光体は,青~黄色の波長域の可視光をも吸収し,赤色光に変換してしまう。そのことは,他色の蛍光体と混合し白色光を形成するとき,赤色蛍光体が青~黄色の蛍光を再吸収するため,発光色の赤色方向へのシフトを誘発する。そのため,現状の白色LEDは,色度調整が難しく,色度ランクを分けながら販売されていた。
今回の開発コンセプトは,“混合配位子場の形成”による蛍光体探索。これは,イオン結合性結晶に発光元素をドープし,その周りに異なる種類のアニオンを配位させること。異種アニオンの配位により,発光元素周りでは空間的な電荷バランスが崩れ,配位アニオンとの静電反発の違いから,発光元素の電子軌道にエネルギーレベルが高い軌道と低い軌道が形成される。
今回の開発は,その低いエネルギーレベルの軌道を用い,赤色発光させるというコンセプト。今回は,発光元素周りにフッ素と酸素イオンが配位したFOLP:Eu2+(組成 K2CaPO4F:Eu2+)を開発した。
FOLP:Eu2+は,単結晶構造解析の結果,無機結晶構造のデータベースにはない新しい結晶構造をした物質であることが分かった。紫外~紫(315~420nm)の光を吸収し,高い変換効率で赤色発光する。
特筆すべきは,青~黄色光領域に吸収を持たず,大きなストークスシフトを示す点にある。そのため,青,緑,黄色等の蛍光体と混合したとき,他の蛍光を再吸収せず,蛍光体の配合比だけで発光色を決めることができる。
論文では,密度汎関数理論を応用し,FOLP:Eu2+が示すストークスシフトは,紫光吸収に伴う大きな結晶構造緩和が起源であることを解明している。
今後研究グループは,FOLP:Eu2+を活用した白色LEDの開発を進め、発光色度ずれがない高演色白色LEDの実現を図っていくとしている。