富士通と富士通研究所は,炭化シリコン(SiC)基板に単結晶ダイヤモンドを常温で接合する技術を世界で初めて開発した(ニュースリリース)。
近年,高周波GaN-HEMTパワーアンプはレーダーや無線通信などの長距離電波用途に広く利用されている。マイクロ波からミリ波帯の電波到達距離は,送信用の高周波GaN-HEMTパワーアンプを高出力化することにより,観測範囲の拡大や長距離・大容量化が可能になる。
GaN-HEMTパワーアンプでは,投入された電力の一部は熱に代わる。発生した熱はSiC基板に拡散され,冷却装置(ヒートシンク)から放出される。SiC基板は比較的高い熱伝導率を持つ材料だが,さらなる高出力化に伴い増大するデバイスの熱を効率的に冷却装置に伝えるには,より熱伝導率の高い材料が必要だった。
単結晶ダイヤモンドはSiC基板に比べ5倍近くと極めて高い熱伝導率を持つ。この単結晶ダイヤモンドをデバイスの冷却材料として接合するため,これまでの製造プロセスでは,不純物除去に利用されるArビームによりダイヤモンド表面に低密度なダメージ層が形成されるため接合強度が弱く,また,SiNなどの絶縁膜を用いて接合する場合はSiNの熱抵抗が熱伝導の妨げになっていた。
今回,GaN-HEMTパワーアンプを高効率に冷却する単結晶ダイヤモンドとSiC基板という熱膨張係数の異なる硬い材料同士を常温で接合する技術の開発に世界で初めて成功した。
Arビームによるダイヤモンド表面のダメージ層の形成を防止するために,Arビーム照射前にダイヤモンド表面を非常に薄い金属膜で保護する技術を開発した。常温で接合可能となる表面の平坦さを保持するために,金属膜の厚さを10ナノメートル以下にしている。
この技術により,Arビーム照射後もダイヤモンド表面にダメージ層が形成されないことを確認でき,接合強度が改善し,単結晶ダイヤモンドとGaN-HEMTのSiC基板を常温で接合することに成功した。
このサンプルで熱の伝わりにくさを表す熱抵抗値で評価した結果,6.7×10-8㎡K/Wと非常に低いSiC-ダイヤモンド界面熱抵抗が得られた。さらにシミュレーションにより,この技術を用いた200W級のデバイスの熱抵抗が従来の61%と大幅に低減することを確認した。
この技術により,さらに高出力なGaN-HEMT送信用パワーアンプが実現できる。気象レーダーなどに応用した場合,観測範囲を従来の約1.5倍に拡大できる見込みだという。
同社ではこの技術を適用したGaN-HEMTパワーアンプの熱抵抗や出力性能の評価を行ない,2020年度に,気象レーダーなどのシステムや5G無線通信システムなどへの適用に向けた,高出力な高周波GaN-HEMTパワーアンプの実用化を目指すとしている。