特に工場などのラインで使用するFAロボットにおいて,作業対象物の位置や形を正確に捉えるセンサーは重要なデバイスとなる。中でも部品を乱雑に積んだバラ積みと呼ばれる状態から,特定の部品の位置や向きの識別を行なう3Dロボットビジョンでは,プロジェクターで複数のパターンをバラ積みの山に照射して1台または複数のカメラで捉え,三角測量によって対象物までの距離や形状を求める方法が用いられる。
広く実用化されている3Dロボットビジョンだが,さらなる高性能化を狙った新技術や新たなプレイヤーが登場しようとしている。ここでは国際ロボット展(11月29日~12月2日,東京ビッグサイト)で展示された,3Dロボットビジョン技術を紹介する。
3Dロボットビジョンの老舗であるキヤノンは,小型・高速の3Dロボットビジョン「FVシリーズ」を参考出品した。ワンショットでの3次元データ取得を特長とし,同社従来製品が数パターンの照射を必要としていたのに対し,この製品は一度のパターン照射で計測を行なえる。これにより,従来機が1.5秒程度必要としていた計測を0.5秒程度で行なえると共に,動体に対する計測が可能となった。
開発品につき詳細な技術は公表していないが,通常3Dロボットビジョンのパターン照射は青色で行なうところ,この製品は一見赤色に見える光を用いる。しかしこの光には「赤色以外も混ざっている」(担当者)といい,複数の色を同時に照射することがワンショットで測定できる技術的な要素であるという。さらに小型軽量(145×80×70mm,950g)なため,ロボットハンドの先端に取り付けられ,部品を把持したときや組付けたときの微妙なズレも認識できる。同社ではこの製品を2018年中に発売したいとしている。
立命館大学発ベンチャーの3次元メディアは,多くのロボットメーカーと協業するなど,3Dロボットビジョンでは大きなプレゼンスを持つ企業の一つ。同社はパターン照射に専用のレーザープロジェクターを用いた開発品を展示した。レーザーを用いた3Dロボットビジョンは産業用としては初の製品になるという。
用いるのは青色のレーザーで,高輝度のパターンを高速で照射する。これによりこれまで3Dロボットビジョンが苦手としていた反射率の高い金属光沢や黒色の対象物でも高速で点群計測が可能になった。画像エンジンも改良したことで,従来機で1.6秒程度かかっていた計測時間を0.8秒にまで高速化することにも成功した。レーザーは高さのある対象物の計測にも有効で,ビジョンヘッドから最大3600mm下にある高さ1600mmの対象物を計測できる。同社でもこの製品を2018年中には製品化したいとしている。
新たに参入を試みているのが倉敷紡績(クラボウ)やロボットメーカーのIAI,キーエンスなどだ。クラボウはロボットビジョンプロジェクトを立ち上げており,その中で高速3Dロボットビジョンを開発している。同社は後発であることから布やケーブルといった形が決まっていない,柔軟物と対象とした計測で独自色を打ち出しており,展示会ではロボットハンドでTシャツをつまみ,3Dロボットビジョンで形状を計測しながら所定の向きに持ち替え,畳むデモを行なった。同社では来年にはこのカメラの貸し出し評価を開始したいとしている。
また,IAIは低価格を売りにした3Dロボットビジョンを開発する。一般的な3Dロボットビジョンは数百万円するが,同社が開発するのは3Dロボットビジョン本体で50万円の製品。PCと直交ロボットを組み合わせても150万円に収まるのが売りで,こちらも2018年の発売を目指している。「3Dロボットビジョンは実際に使おうとするとトラブルも多い。そのとき原因がカメラ側なのかロボット側にあるのかが顧客の悩みだった」(担当者)といい,ロボットメーカ自らが3Dロボットビジョンを手掛けることで,システムとしての価値を提供したい考えだ。
他にも3Dロボットビジョンに参入するメーカーは多いが,差別化としてキーワードとなったのが高速化とロボットとの親和性だ。測定データを最大限ロボットが利用できるのはもちろん,ロボットに部品を供給したり組み立て品を搬送したりする周囲のシステムとの協調も求められる。そのためカタログの性能よりも実際のラインでの評価が重要となるため,開発メーカーはロボットメーカーとの協業が今後ますます重要となりそうだ。