産業技術総合研究所(産総研)は,熱電材料の性能を示す「ゼーベック係数」を簡便にかつ精度良く測定できる手法を開発した(ニュースリリース)。
熱電材料は熱エネルギーを電気エネルギーに変換できる特殊な合金や半導体で,廃熱を電気に変換して,有効活用できる材料として期待されている。優れた熱電材料を開発するには,熱-電気変換の性能指標であるゼーベック係数を正確に測定する必要がある。
しかし,従来の手法では,高度で複雑な装置で長時間の測定を行ない,熱伝導率や放射率などの熱物性値を正確に測定する必要があり,得られるゼーベック係数の精度は10%程度であった。
一方,今回,開発した手法では,両端に温度差を与えた試料に直流電流を流して,試料の温度変化を測定し,次にスイッチなどで切り替えて交流電流を流して,温度変化に加えて電圧を測定する。交流電流の場合,電子の移動方向の変化に応じた熱の吸収・放出が繰り返されるため,電子が熱を運ぶことによる温度変化は生じない。
ここで,交流と直流を流した際の試料の温度変化の差と試料両端の電圧の測定値を,熱解析より新たに導き出した式に代入することで,試料のゼーベック係数が得られる。すなわち,熱伝導率などの熱物性値を測定せずにゼーベック係数を求めることができる。
今回開発した手法を用いて,代表的な熱電材料であるビスマス・テルル合金のゼーベック係数の温度依存性を測定したところ,従来,1温度あたり1日程度要していた測定時間を約1時間に短縮することができた。また,従来の手法では測定精度は10%程度であったが,今回の手法では約2%の測定精度に向上していることが確認できた。
今後は,より広い温度範囲でゼーベック係数を計測できるよう測定装置の改良を進める。また,自動計測できる支援ソフトウェアなどを構築し,より使いやすい計測システムを開発する。また,従来の手法では困難であった薄膜材料の測定にも取組み,新材料の探索に寄与するとしている。