内閣府 総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の一環として,日本電信電話(NTT),国立情報学研究所(NII),東京大学らのグループは,光の量子的な性質を用いた新しい計算機「量子ニューラルネットワーク(QNN)」をクラウド上で体験できるシステムを開発し,2017年11月27日より公開する(ニュースリリース)。
量子コンピューターには,ゲート型,アニール型,ニューラルネットワーク型の異なる3つのアプローチがある。今回,日本から公開されるニューラルネットワーク型2000ビット,400万結合マシンは,世界最大規模の量子コンピューターであり,これまでの限界を30倍以上拡大した2000ビットまでの組み合わせ最適化問題が解ける。
量子ニューラルネットワークは,光パラメトリック発振器(OPO)と呼ばれる新型レーザーの量子力学的特性を用いて最適化問題を計算する。長い光ファイバーリング中に配置された位相感応増幅器と呼ばれる光増幅器をオン・オフすることで,数千個におよぶ多数のOPOパルスを生成する。
このOPOパルス間に,解きたい問題に対応する相互作用を入れると,多数回の周回の後にOPOパルス群は全体として最も安定となる位相の組み合わせをとり,これが問題の答えとなる。ImPACTプログラムでは,1kmの光ファイバーリング中で発生した2000個のOPOパルスの間に,測定・フィードバックにより任意の相互作用を導入することで,最大2000要素の最適化問題を瞬時にして解くQNNを2016年に報告している。
今回,これまで大規模な光学実験装置であったQNNをデータセンター等に設置できる筐体に納めたコンパクトなQNN計算装置を開発した。また,光学システムの温度安定精度の向上と共振器位相のフィードバック制御の改良により長時間安定動作を実現し,1週間以上にわたり安定して大規模最適化計算が行なえることを確認している。
今回,このQNN計算装置を一般のユーザーに体験してもらうためにQNNクラウドシステムを公開する。このシステムは,ユーザーが直接触れるウェブページを提供するウェブアプリケーションサーバーと,神奈川県厚木市のNTT物性科学基礎研究所に設置されているQNN計算装置との計算リクエスト・結果リスポンスのやり取りを制御する計算タスク制御サーバーから構成されている。
これによってユーザーは,複雑で専門的技術が必要であった光学実験装置の調整を必要とせずにQNN計算装置を体験することが可能となる。今回の公開では,大規模かつ難しい組み合わせ最適化問題の1つ,Max-Cut問題について,最大2000要素からなるQNNにおいて,全ての要素間に結合があるような難しいケースをこのクラウドシステムを通じてQNN計算装置上で解くことができる。