シャープは,世界で初めて8K(60p)映像の「撮影」「収録」「再生」「ライン出力」が可能なカメラ/記録部一体型の業務用8Kカムコーダー「8C-B60A」を,12月に発売する(ニュースリリース)。価格は880万円(税別)。
小型化に有利な単板方式で,撮像素子には3,300万画素のSuper 35mm相当の大型CMOSイメージセンサを搭載する。センサーメーカーは非公表。圧縮方式にはCPU負荷の低いコーデックである「Grass Valley HQX Codec」を採用した。6Gb/sの出力信号は,2TB SSDパックにより約40分間の連続収録が可能。映像を収録しながら,8K(60p)の非圧縮映像をリアルタイムで出力できるため,ライブ配信にも活用できる。
今回,シャープから発売されるのはカメラ本体のみ。8Kカメラはレンズの性能に対して非常にシビアだが,今回は専用レンズの開発までは行なわず,レンズマウントにPLマウントを採用して他社のレンズを使えるようにした。今回の発表では,キヤノンとカールツアイスのレンズが搭載されていたが,レンズは画質に直接影響するので,同社ではなるべく高性能のレンズを勧めたいとしている。
開発は8K映像関連技術を有するアストロデザインと協力して行なわれた。本体に取り付けるSSDパック,有機EL採用のビューファインダーの他,4Kモニター,コンバーター,レコーダー等はアストロデザインから供給される。両社の開発分担は主に基本設計をアストロデザインが担当し,シャープは量産性の評価やコストダウンを担当した。
これまで8Kカメラはシネマ用などが発売されていたが,放送用機材はカメラを含めて価格がネックとなり,民放各局ではその導入に及び腰だと言われてきた。実際,これまで発売されてきた8K関連機器は研究用に近い製品が多く,今回の8Kカムコーダーを構成する,カメラ,カメラコントロールユニット,レコーダー,コンバーターを揃えると1億円前後になった。新製品はこれらの機能を1台の筐体に纏めており,コストパフォーマンスの面でも優れている。
開発では小型化に最も苦労したという。特に筐体を小さくすると廃熱の問題があり,ファンを設けるなどして対応した。また消費電力が大きく,使用する業務用カムコーダーの汎用バッテリーではSSDと同程度の1時間くらいで交換の必要があるという。しかし,本体重量を5kg,レンズやバッテリー等を含めても10kg以内と,中継等でカメラマンが従来のテレビカメラ同様に扱える重量に抑えたのは大きな進歩と言える。
シャープはNHKと共に8Kディスプレーの開発を早くから行なっており,2016年には8K試験放送の受信機,今年8月には8Kテレビの発売を開始するなど,同社が進める8Kを軸とした映像事業「8Kエコシステム」の構築を進展させている。今回の新製品で映像の入り口となるカメラと出口となるテレビが揃ったことになる。中間となる8K編集システムについては同社は製品を持たないが,アストロデザインを含む適切なソリューションを紹介していくとしている。
今回の業務用カムコーダーは同社として初めて挑戦する分野となる。8Kは美術やスポーツの資料映像としても期待されることから,テレビ局だけではなく,大学や研究機関などにも売り込むことで,将来は年間30万台のテレビカメラ市場で10%のシェアを取りたいとしている。同社はこの製品は他の老舗カメラメーカーに先駆けて投入すると共に,挑戦的な価格とすることで,8K市場の起爆剤としたい考えだ。