物質・材料研究機構(NIMS)を中心とする研究グループは,次世代パワーデバイスとして期待される窒化ガリウム(GaN)を用いたトランジスタにおいて,GaN結晶と絶縁膜との界面に,これまでまったく知られていなかった,原子レベルで平坦な準安定酸化ガリウム結晶の層が存在することを発見した(ニュースリリース)。
さらに,この酸化ガリウムと同様の層が,絶縁膜をつける前にGaN結晶の表面が自然に酸化されることでも形成される可能性を明らかにした。
GaNをベースとした金属-酸化物-半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)は,次世代パワーデバイスとして期待されている。しかし,シリコン製のトランジスタに比べて,電子やホールの移動度が低いことが実用化への問題となっている。
移動度は,GaN結晶とゲート絶縁膜の界面構造に大きく影響を受けるため,界面を制御する方法として,これまでGaN表面の洗浄方法等のプロセス検討,ゲート絶縁膜に使われる材料の検討等が行なわれてきたが,いずれのプロセス条件およびゲート絶縁膜を用いても,電気的な計測では界面に特異な差は見つからず,その原因も分かっていなかった。
そこで研究グループは,二酸化ケイ素 (SiO2) を絶縁膜に使ったトランジスタを作製し,GaN結晶との界面を電子顕微鏡で直接観察したところ,1.5nm程度という非常に薄い,GaN結晶とエピタキシャル関係を持つ結晶状の酸化ガリウム(Ga2O3)の層がある事を発見した。また,このGa2O3層は,一般に良く知られている安定なβ相とは異なり,準安定相であるε相と呼ばれる構造とγ相と呼ばれる構造が混じった構造であることを明らかにした。
観察された準安定Ga2O3結晶は,原子レベルで平坦なため,界面での伝導を阻害する界面準位密度を低減できると考えられる。さらに,同様なエピタキシャル成長した準安定相からなるGa2O3は,ゲート絶縁膜形成前のGaN基板表面にも,1nm程度の自然酸化膜として存在している事を明らかにした。
絶縁膜形成前のGa2O3層が,GaN結晶/絶縁膜界面で観察された構造と同じかは,今後詳細な解析が必要だとするが,結晶状の準安定酸化ガリウム層が幅広い条件で形成されることを示しているという。
パワーデバイスは,より低損失でより大きな電流を制御することが求められるが,この研究成果によって,GaNをベースとしたパワーデバイスにおいて,半導体/絶縁体界面を制御することにより,パワーデバイスがオン状態の際の抵抗を低減し,より大きな電流を流すための手がかりが得られた。
今後,今回発見された準安定Ga2O3層の生成条件や,デバイスの電気的特性との関係を明らかにするとともに,界面層を最適化していく事で,シリコンや炭化ケイ素をベースとした従来のMOSFETに代わる次世代パワーデバイスの実用化を目指すとしている。