東京大学と理化学研究所は,世界で初めてワイル粒子を反強磁性体マンガン化合物(Mn3Sn)の内部で実験的に発見した(ニュースリリース)。これにより,従来の強磁性体や反強磁性体とは異なった,新しい磁性体「ワイル磁性体」を世界で初めて見いだしたことになる。
「ワイル粒子」とは質量ゼロの粒子で,2015年に固体の非磁性物質(ヒ素化タンタル)の中で発見された。この歴史的な大発見以降,ワイル粒子を有した物質探索やその特性を利用したデバイス開発が世界中で行なわれている。
今回発見したワイル粒子は,従来の非磁性体で発見されたワイル粒子とは発現機構が全く異なり,物質の磁性によって創出されるため「磁気ワイル粒子」と呼ぶ。磁気ワイル粒子の発見により,人為的に外部磁場で物質の磁性状態を制御することで,室温でも質量ゼロの磁気ワイル粒子を自在に操作できる新しい磁性体「ワイル磁性体」を発見した。
このワイル磁性体では,磁場がなくても巨大なホール電圧を発生させたり,固体内で磁場中と同方向に電流を誘起させるなど,今までにない全く新しい量子機能を持った特異な物質特性を室温で発現することができるという。
これまでに同物質が示す巨大な磁気輸送現象や熱電効果が観測されていたが,今回の発見により,その発現機構に磁気ワイル粒子が本質的に重要な役割を担っていることがわかった。
このようなワイル磁性体の持つワイル粒子の創出・制御を利用した新しい機能を使うことで,磁気メモリや熱電技術開発に関する革新的な進展が期待される。また,マンガン合金が廉価で毒性のない元素で構成されていること,容易に大型の単結晶を育成できることなどから,ワイル磁性体には実用材料としての好条件が揃っている。
研究グループでは今後,ワイル磁性体を利用した磁気ワイル粒子で駆動するデバイス開発に向けた研究の急速な進展が期待されるとしている。