高エネルギー加速器研究機構(KEK)は,東京工業大学,フランス国立科学研究センター(CNRS),ピエール アンド マリーキュリー大学と共同で,グラフェン内の超高速な電子の動きが場所ごとに異なることを世界で初めて観測した(ニュースリリース)。
低コストで大面積のグラフェンの作成に使われている化学気相成長(CVD)法では,グラフェンの構造が不均一になることが知られており,この構造がエネルギーバンド構造に影響し,電子の輸送特性に影響することは理論的に予想されている。しかし,ナノスケールの局所的な構造欠陥と電子の超高速輸送特性の連性は明白にされていなかった。
研究グループは,この研究に先立って100フェムト秒の時間スケールとナノメートルの空間スケールで電子の動きが観察できる特殊な装置,フェムト秒時間分解光電子顕微鏡「TR-PEEM」を開発しており,これをCVD法で作られたグラフェンに適用しようと考えた。
TR-PEEM法により,ラマン分光法によるPEEM像の領域を区別して,光吸収により生成した電子が「伝導電子として存在できる時間(寿命)」を観測し,「寿命」が1層領域と2層領域とで異なることを世界で初めて確認した。これは構造と電子輸送特性を直接関連付ける結果であり,グラフェンの電子状態の制御,つまり電子の動きの制御を進展させる成果。
今回の研究では,グラフェンの不均一な構造の特性を特定し,電子デバイスの性能を決定する電子輸送特性を直接評価することに成功した。構造と電子輸送特性の直接対比が可能であることを証明したもので,今後のグラフェン素子作成の重要なツールとなりうるとする。
今回使用したTR-PEEMは,空間的に不均一な試料における電子が面内方向に伝搬する過程の可視化が可能であり,局所的な電子移動速度を見積もることができる。研究グループでは,TR-PEEMを電子・光電デバイス性能評価の技術として確立することを展望のひとつとしている。