一方,従来の画素の列ごとに信号を集めて処理をする画素列並列処理方式では,高フレーム周波数化には限界があるとして,画素ごとに信号処理回路を集積し,全画素の信号を一斉に出力する,画素並列信号処理3次元構造撮像デバイスも提案している。
この方式では画素を増やしても高フレーム周波数化が可能なため,将来の立体映像の撮影への活用が期待できるとしている。また,これまでのように周期的に電荷を転送するのではなく,画素毎に一定の電荷がたまった時点で転送することもできるので,電荷が飽和して白飛びすることを防ぐことができる。
今回,この構造を持つ128×96画素のセンサーを試作した。別々の基板に形成した受光部と信号処理回路を接合しているが,サブミクロンレベルの接合精度に対応するため,東京大学と基板に埋め込んだ接合部同士を原子間力間結合する技術も開発した。
このプロセスにより,結果として裏面照射型構造となり,感度も向上した。また,暗電流も低減しており,出力は16 bit,ダイナミックレンジ96 dBを実現している。
この他にも,イメージセンサーの高解像度化による1画素あたりの光量の低下を補う,アバランシェ電荷増倍を用いた信号増幅の研究や,RGBに感度を持つ3枚の有機膜を組み合わせた有機撮像デバイスの,効率的な製造法などが紹介された。
数年前まで直視型ディスプレーの登場すらおぼつかなかった8Kだが,ここにきてその技術は一気に実用化が見通せるレベルにまで成熟してきている。
今回技研では,8K放送で必要な要素技術よりも少し先にある技術が紹介された。特に撮像センサーでは,より小型化や高速化を実現したセンサーや,その先にある技術も展示された。
しかし,例えばレーザーディスプレーでないと再現できないと言われているBT.2020の色域包含率100%をフレキシブル有機ELディスプレーでどう実現していくのかなど,超えるべきハードルは少なくない。さらに,有機ELディスプレーで先行する韓国企業も,フレキシブルな8Kディスプレーの開発を明言しており,その動向も見逃せない。
毎年,着実に成果を出し続ける技研だけに,こうした問題も近いうちに何らかの解が提示されるであろう。次回の公開での成果が待たれる。◇
(月刊OPTRONICS 2016年7月号掲載)