大日本科研や大興製作所など5社は共同で,紫外から近赤外までの超広帯域空間光位相変調器(SLM)を開発した。
このSLMは,北海道大学名誉教授・山下幹雄氏の研究シーズを基に開発されたもので,大日本科研,システムロード,大興製作所,高濱研究所,東洋レーベルの5社が開発を手掛けた。
山下氏によると,「紫外域のフェムト秒パルスのチャープ補償や波形整形を可能にするのは本装置のみ」としている。従来は約450 nmより長波長に対応するものがあったが,1台のSLMでは200〜300 nmの波長帯域に限られていた。
そのため,可視や近赤外のスペクトルを有するフェムト秒パルスに対しては,複数のSLMが必要だった。今回開発した装置は300〜1100 nmの波長動作範囲で,任意のフェムト秒パルスのチャープ補償やパルス波形整形を1台で対応できるのが,大きな特長だ。
また,従来のSLMでは波長帯域が狭いため,約10 fs以下の複雑なスペクトル位相のフェムト秒パルスの完全なチャープ補償や波形整形は難しかったという。
しかし,この装置では波長帯域800 nm(動作波長300〜1100 nm)と1オクターブを超えるため,約10 fs以下から世界最短の2.6 fsモノサイクル光パルス発生のためのチャープ補償や,そのような極限パルスの波形整形も可能になるとしている。
開発した装置は,これらの波長域に吸収のある生体分子・有機分子の分子振動・結晶の格子振動の等の量子制御,光化学反応制御,非線形顕微鏡などへの応用を可能としているほか,大出力極短レーザーパルスシステムやアト秒パルス発生のキー要素デバイスにもなると期待されている。
液晶セルの性能だが,反射防止膜(UV-NIR広帯域ARコーティング)が施されており液晶セル本体の透過率は300 nmで50%以上,350 nmで70%以上,400 nmで80%以上となっており,16ピクセルの検証用液晶セルで評価した。現在,1.1〜2.5 μm帯域で動作するSLMも検討中としている。
基本仕様は装置本体のサイズがW192 mm×D128 mm×H29 mm,ピクセルサイズが長さ9.8 mm/97 μm/5 μmのライン&スペース,ピクセル数が640ピクセルとなっている。
開発を手掛けた5社は,山下氏が会長を務める京都光技術研究会(京都府中小企業技術センター)に参画しており,大日本科研が液晶セル製造を,システムロードがアプリケーションソフトの開発とシステムの評価を,大興製作所が石英部品の開発を,高濱研究所が回路基板とデバイスの設計を,東洋レーベルが機械・デバイス設計をそれぞれ担当した。
開発したSLMは既に,電気通信大学とドイツ・DESY(Deutsches Elektronen-Synchrotron)に合計3台を納めたとし,今後はさらなる普及を目指す。◇
(月刊OPTRONICS 2016年7月号掲載)