日本電信電話(NTT)は研究成果の発表会「NTT R&Dフォーラム2016」を2月18日,19日にNTT武蔵野研究開発センター(東京三鷹市)で開催した。
IoTやクラウドなど,現在,実用化が進む通信技術が展示の中心だったが,これまでの開発の中で派生した技術を他分野に転用する試みも公開された。ここではその中でも,将来技術へのシーズを展示する「極限追及」コーナーにあった光学系の技術を紹介する。
■レーザーによる振動子の制御
半導体でできた微小な板バネ構造はMEMSなどで広く使用されているが,熱により振動(熱ゆらぎ)が発生するという問題がある。こうした振動は特にMEMSをセンサーとして用いるとき,熱ノイズとしてその性能に影響を与えることがある。
従来はこの熱ノイズをキャンセルするために,振動に応じてアクティブに制御をかける電気回路や光回路が用いられてきたが,複雑な機構が必要であった。
これに対しNTTは,光電効果と圧電効果を応用したメカニカル振動子を開発した。これはAlGaAsとGaAsを張り合わせたもので,吸収のある波長のレーザーを当てると内部電界が変化し,圧電効果によって内部応力も変化する。これにより振動強度が変わり,振動子が歪むことで光吸収特性が変化する。
この繰り返しによって振動は自律的に変化するので,複雑な機構を用いずともレーザー振動子に当てるだけで振動を強めたり(発振),弱めたり(抑制),任意の制御ができることになる。
振動子の動きは,プローブ用のレーザーを当てて観察し,振動子の振動は制御用のレーザーの波長や強度を変化させることでコントロールできる。制御用レーザーは波長820±1 nmのチタンサファイアチューニングレーザーを用いている。
この技術はレーザーで振動子の熱を制御するレーザー冷却の一種。まだ原理実証の段階で,制御できる振動強度は1/2程度だというが,将来的には1/10レベルまでには持っていきたいとしている。
この技術が実現すれば光に敏感なメカニカル振動子を用いて半導体の光学特性やテラヘルツ吸収を高感度に測定することが可能になるほか,高効率な光−電気−機械変換を実現するコンバーターへの応用も期待できるという。
■プログラマブル光回路
量子コンピューティングに期待が高まっているが,量子実験を効率的に行なえるプログラマブルな光回路はその実現に大きく貢献するものだ。これは光通信デバイスに用いられている平面光波回路を応用したもので,シリコン基板上の6本の光路それぞれに,ゲートとして各16個のマッハツェンダー干渉計を設けた試作品が展示された。
マッハツェンダー干渉計にはヒーターが組まれており,電気制御するだけで光路を自在に変更することができる。
これにより,これまで巨大な免振台上に,数日から数週間をかけて複雑に組んでいた実験用の光学系の設置や変更を数秒で行なうことができるほか,特殊な調整技術などのスキルも不要となる。
この回路を用いることで,光子に位相差を付けて数字として虚数を表現できるほか,光子を3:7に分けるようなビームスプリッターとしても使えるという。NTTでは現在,量子コンピューティングの共同研究を行なっており,その中でこの回路を用いているという。