基礎生物学研究所,名古屋大学,日本女子大学の研究グループは,メダカの色覚に季節変化が存在することを明らかにした(ニュースリリース)。
メダカは春から夏は活発に泳ぎ回って,ほぼ毎日配偶行動をするが,冬は川底でじっと過ごしている。しかしこれらの行動の違いをもたらす仕組みはわかっていなかった。研究の結果,メダカは冬と夏では光感受性や色覚が異なり,季節によって世界の見え方が異なっている可能性が考えられた。
目の網膜には視覚をつかさどる視細胞があり,桿体細胞が薄暗いところで薄明視に関わっており,錐体細胞が明るいところで色覚を担っている。ヒトには赤1つ,緑1つ,青1つの三つの色を感じる錐体視物質(オプシン)がある。一方,メダカには紫1つ,青2つ,緑3つ,赤2つの合計8つものオプシンがある。
研究グループは冬の環境で飼育したメダカと,冬の環境から夏の条件に移した際のメダカの目における遺伝子発現の変化を網羅的に検討した。すると,視覚をつかさどるオプシンやその下流の情報伝達経路の遺伝子の発現が冬には著しく低下していたのに対して,夏には一斉に上昇することが明らかになった。
さらに実験により,夏のメダカの行動が現れるためには,夏に水温が上昇することによってオプシンが発現誘導されることが重要であることが明らかになった。
この結果から,メダカは冬の間,オプシンを含む様々な遺伝子の発現を抑えることで,タンパク質生産のコストを削減していると考えられる。一方,春から夏にかけての繁殖期に光感受性や色覚を顕著に発達させることで,繁殖の成功率をあげていることが予想される。
近年,トゲウオやスズメダイなどの他の魚類においても,オプシンの発現が水深や水の濁り具合などの環境の変化によって変動することが報告されている。また,ヒトの色覚が季節によって変化することも報告されている。今回発見された色覚の季節変化という現象はメダカにとどまらず,様々な動物に広く保存された現象であることが推測されるとしている。