ドライバーがオーディオなどの機器を操作するHMIでも光は活躍している。中でもドライバーの手の動きを検出して,視線を逸らさずに機器の操作を可能にする「ジェスチャーコントロール」は,「Kinect」をはじめとする赤外線深度センサーが実用化されていることもあり,自動車向けでも様々な企業が製品化を目指している。
そして昨年,BMWの最上級セダンである7シリーズの新モデルにこのジェスチャーコントロールが実際に搭載され,話題となった。
この技術を実現したのはベルギーの自動車向け半導体メーカー,Melexisだ。同社はTime Of Flight(TOF)による3次元センサーによるジェスチャーコントロール技術を開発しており,今回それをBMWに供給した。
このToFセンサーは320×240画素,1/3型サイズで最大600 Hzのフレームレートで動作する。光源は赤外線レーザー,LEDどちらでもパルス動作させることで利用でき,車内のような近距離での測定が可能なのと,120 kluxという照度下でも動作する高いロバスト性が特長となっている。
このセンサーは,指の数や動きまで識別することができる。これによりBMWの新型車は,オーディオや携帯電話などの操作を,差し出した指の数や手のひらの前後左右の動き,回転といったジェスチャーで可能にしている。
一方国内では,村田製作所がこのMelexisの技術を用いて,さらに高度なジェスチャー認識システム「モーションセンシングソリューション」の開発を行なっている。
これはADASが提供する情報がHUD上にアイコンとして表示されているとき,ドライバーはハンドルを握ったまま指をさす(指を持ち上げる)だけで,アイコンを選択し,詳細な情報を見ることができるというもの。ハンドルから手を離さないジェスチャーで操作中の安全性が格段に高まる。
同社ではジェスチャー検出のアルゴリズムを独自に開発しているほか,Melexisの1/10サイズのTOFセンサーの開発も行なっているという。将来的にはウェアラブルディスプレイなどにも搭載し,AR(拡張現実)にも応用したいとしている。
同社はさらに,振動によって面の上に仮想のスイッチを形成する「フィードフォワードハプティクス」も開発する。
面をなぞるドライバーの指の位置を,赤外線センサーなどで検出し,指が特定の位置に来たときにピエゾ素子で高周波振動を励振する。すると面の摩擦力が減少し,ドライバーはそこに物理的な仕切りがあるように錯覚するという仕組みだ。
これをタッチパネルと組み合わせてハンドルに取付ければ,ドライバーは視線を落としたり,ハンドルから手を離したりすることなく,仮想スイッチの位置を指で探し出し,操作することができる。
赤外線センサーソリューションの米neonodeも「ハンドルから手を離さないHMI」というコンセプトにおいて,ユニークな提案をしている。
同社は電子書籍リーダーのタッチパネルなどに赤外線センサーを供給する企業だが,ハンドルの外縁に沿って赤外線センサーを埋め込み,ハンドル自体にタッチセンサー機能を付与するという技術「zForce DRIVE steering wheel」を開発している。
これは,運転しながらハンドルをさすったり(スワイプ),叩いたり(クリック)することで,デバイスを操作しようというもの。運転に意識を集中しながら直感的な操作を可能にする。ハンドル全周にセンサーを取り付けており,ハンドルのどこでも同じように操作できる。
同社ではこのハンドルとHUDの組み合わせを提案しており,製品化に向けて関連メーカーに呼びかけを行なっている。
赤外線カメラで視線の方向や瞼の開き具合を検出する技術も開発が進んでいる。自動車への応用では運転手の居眠りやわき見運転を監視・警告する装置として,一部で実用化も始まっている。
オムロンはこれを応用し,オーディオなどをコントロールする試みを行なっている。これは視線を特定の方向に向けることで操作を行なうもので,視線を運転から一瞬逸らす必要があものの,ハンズフリーでの操作が行なえるので,認識率と操作性が高ければ安全性を高めることができるだろう。
ジェスチャーにより,ハンドルから手を離すことなく操作を行なうことができるHMIへの期待は今後,ADASの進化と共に高まるのは間違いない。光技術はセンシングにおいて積み重ねてきた実績があり,いい意味で「枯れた」技術でもある。車載デバイスとするには性能だけではなく,耐久性や価格も厳しく問われるが,今後,大いにその活躍が期待できるだろう。◇
(月刊OPTRONICS 2016年3月号掲載)