物質・材料研究機構(NIMS)の研究グループは,各面に一つずつポケットを持つ,ナノカーボンでできたマイクロサイズのキューブ状物質を作製し,ポケットに蓋をしたり,再度あけたりすることに成功した(ニュースリリース)。
材料は,その構造に起因して様々な機能を発揮する。これまで,原子・分子レベルで構造を作り分け,作り上げた構造を操る技術が幅広く研究されており,実際に多くの機能性材料やナノシステムが報告されてきた。しかし,原子・分子のサイズ (ナノサイズ) より大きいマイクロサイズの構造制御および構造操作は,制御する原子や分子の数が飛躍的に多くなるため困難だった。
今回,研究グループでは,炭素材料の一つであるC70フラーレンを用いて,各面に一つずつポケットをもつマイクロサイズのキューブを作製することに成功した。これまで,様々なフラーレン結晶の構造制御を達成してきた「液液界面析出法 (Liquid–Liquid Interfacial Precipitation; LLIP) 法」」を改良したDynamic LLIP法により,キューブの全ての面に,一つずつ約1μmのポケット構造を作製した。また,このキューブのポケットに蓋をしたり,その蓋を開けたり,自在に制御することが可能であることを明らかにした。
さらに,大きさがほぼ同じ2種類の粒子 (樹脂由来の粒子と炭素素材の粒子) を,作製したキューブと混合したところ,粒子の化学的性質を認識して樹脂由来の粒子は1つだけ取り込まれた一方,炭素素材の粒子は複数取り込まれることを明らかにした。
この研究で作製したキューブのポケット構造は,マイクロ粒子の化学的性質の違いを認識することが可能であり,しかも自在に蓋を開閉できる。このポケット構造に,標的の薬剤や生体機能性材料を内包させて輸送し,蓋を開閉して徐放を制御するなどの医療応用や,汚染物質などを選択的に取り込んで環境を浄化するなどの応用が期待されるとしている。