名古屋大学の研究グループは,極めて褪色に強い蛍光標識剤の開発に成功した。これは超解像イメージングを利用する生命科学研究者にとって待望の技術となるもの(ニュースリリース)。
STED顕微鏡は,2014年のノーベル化学賞に選ばれた超解像顕微鏡技術の一つで,従来の蛍光顕微鏡の限界を大きく上回る空間分解能で生命現象を可視化できる画期的なイメージング手法。しかし,超解像顕微鏡には強いレーザー光の照射が必要で,撮影中に蛍光色素が速やかに分解し,褪色を引き起こしてしまうという大きな問題があった。
蛍光標識した細胞を超解像レベルで連続的に撮影できれば,細胞内の微細構造の三次元的なイメージングや,細胞小器官や分子の動きをつぶさに長時間にわたって観察できるようになる。このような理想の超解像イメージング技術の達成には,圧倒的に高い耐光性の蛍光標識剤の開発が不可欠であり,生命科学研究の分野で待望されていた。
今回,研究チームは,生体分子と結合できる超耐光性蛍光標識剤「PhoxBright 430 (PB430)」を開発し,STED顕微鏡の連続撮像を実現した。この蛍光標識剤を用いれば,これまで知られざる細胞の微細構造や機能に関する情報を高精細かつ高精度で取得でき,生命科学研究の飛躍的な進展や,新たな顕微鏡技術の開発への貢献が期待できる。
さらに,耐光性を利用した新たなマルチカラーイメージング(多重染色)技術を考案した。従来の蛍光色素は,一枚のSTED画像を取得しただけでも著しく褪色してしまうため,二回目のスキャンではほとんどシグナルを得ることができない。これを逆手に取り,異なる二つの細胞内構造の染め分けを試みた。すなわち,PB430と類似の光学特性を有しながら,すぐに褪色してしまう蛍光色素とPB430を組み合わせた。
従来のマルチカラーSTEDイメージングでは,励起および蛍光波長を考慮する必要があるため,利用できる色素の組み合わせが限られていたが,一対の励起レーザーとSTEDレーザーのみでマルチカラーイメージングを実現できるこの手法では,原理上あらゆる色素と組み合わせることができる。
超解像レベルでの三次元画像や耐光性を利用したマルチカラーイメージングを簡単に取得することが可能になったことから,超解像顕微鏡の利用がますます広がり,生命科学研究の進展や新たな顕微鏡技術開発につながっていくとしている。