慶應義塾大学の研究グループは,半導体デバイスや太陽電池の生産過程で大量に発生する廃シリコン粉末を主原料にバインダーや導電助剤などを添加し,銅箔表面へ塗布した後,特定条件下でのレーザー照射技術を用いて大きさ数ミクロンの単結晶シリコンピラーの形成に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
リチウムイオン電池の高容量化のため,従来の炭素電極の代え,高容量化の見込めるシリコン電極に関する研究が進められている。しかし,シリコン電極はリチウムイオンを吸蔵すると3倍以上の体積膨張が発生するため,充放電を繰り返すと電極の割れや集電体からの脱離が起こる問題がある。
一方,半導体デバイスや太陽電池の生産において単結晶シリコンインゴットをワイヤソーでシリコンウエハへ切断する段階で,粒径サブミクロン~数ミクロン程度のシリコン粉末が大量に発生する。現在そのシリコン粉末は,砥粒などの不純物を含むことからインゴット生産に再利用されることはなく,産業廃棄物として廃棄されている。
この研究は,こうした廃シリコン粉末を再利用しリチウムイオン電池負極を製造することを目的としする。導電助剤としてアセチレンブラック,バインダーとしてポリイミドを加えた廃シリコン粉末を集電体としての銅箔上に塗布してレーザー照射を行なう。レーザを吸収した最表面のシリコン粒子は溶融し,粒径が小さい粒子は素早く蒸発するが,大きい粒子は溶融し液相となる。
液相となった粒子は周囲の粒子を取り込みながら沈殿していき,凝集しつつ銅箔表面に達する。また,アセチレンブラックはレーザー照射により燃焼および気化し,高圧プラズマとなる。プラズマの圧力により,液相のシリコンはピラー状に成長する。そして,液相シリコンの再凝固により,シリコンマイクロピラーが形成される。
このように形成されたマイクロピラーの周りには十分な空間が存在するため,充電時のシリコンの体積膨脹を完全に緩和・吸収でき,電極の破壊を防止することが可能となる。製作したシリコンピラーシートをリチウムイオン電池負極として実際に充放電実験を行なったところ,従来の炭素負極に比べて,初期段階において約10倍,190サイクル後は約16倍の容量を保持していることを確認した。
今後は開発したシリコンピラーシートをリチウムイオン電池負極として使用する際の電池性能のさらなる向上のため,廃シリコン粉末の前処理技術や銅箔への塗布技術,シリコンピラーをアモルファス構造にするなどの結晶性制御技術について研究を行ない,実用化に向けての開発を進めていくとしている。