電通大,燃料電池電極触媒開発向けビームラインを構築

電気通信大学は,次世代燃料電池開発のための解析用に,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と建設した大型放射光施設SPring-8のビームラインBL36XUにおいて,その場/オペランド燃料電池マルチ同時計測システムの開発整備に成功した(ニュースリリース)。

燃料電池内の電極触媒の作用はいまだブラックボックスの状態であり,触媒性能や劣化の因子とメカニズムを明らかにするためには,燃料電池作動下で評価・解析することが重要となる。

しかし,次世代燃料電池電極触媒のための開発設計指針を得るためには,一つの解析手法では難しい。また,燃料電池内の電極触媒層は不均一で試料ごとに違いが見られることも多く,再現性も含めて信頼性高く精度よく解明することが難しく、明確な結論を得るに至らないことも多い。

研究グループは,開発したマルチ同時計測システムにより,電位過渡応答過程における燃料電池電極触媒のダイナミックな構造変化を含む8つの素過程からなるメカニズムを詳細に明らかにすることに成功した。

このシステムは,同時時間分解XAFS-XRDと同時HR-XANES-XRD-2次元空間分解投影イメージにより,同一試料・同一箇所の同時計測を実現した。異なる試料や異なる箇所,異なる時の計測に比べ,より高い精度で燃料電池触媒の解析が可能となった。

同一試料の同一箇所について,状態分析,時間分解分析,空間分解分析,結晶回折,発光分光など,マルチ計測が可能。マルチ同時系列計測が実現したことにより,構造,電子状態,バルク結晶,2次元および3次元イメージング,吸着種などに関する多角的情報が得られ,正確で詳細な燃料電池解析ができる。

研究グループは,BL36XUビームラインでの計測を基礎にして,高活性と高耐久性を併せ持つ新規の湾曲型正8面体PtNix/C電極触媒を用いて,次世代燃料電池電極触媒の開発設計指針の基盤因子を具体化することに成功した。

世界オンリーワンの計測手法が開発整備されたBL36XUビームラインは,今後,多くの試料に展開が可能。他では得られない劣化機構解明と劣化抑制の解決に繫がる多角的情報を提供し,開発設計を大幅に加速するとしてる。

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