東京大学を中心とする国際共同研究チームは,銀河系の「バルジ」と呼ばれる中心部にある,膨張と収縮をくり返すことで明るさが変化するミラ型変光星というタイプの天体に注目して分光観測を行なったところ,その中に炭素を主成分とする固体微粒子(すす)に覆われた変光星を世界で初めて発見した(ニュースリリース)。
我々の太陽系が属している銀河系(天の川銀河)の中心部には,バルジと呼ばれる数百億個の星が密集した領域がある。10年ほど前までは,バルジの中には約百億年前に作られた古い星ばかりが存在していると考えられていた。
しかし,数はそれほど多くないながら数億年から数十億年の比較的若い星も存在し,バルジにある星の集団はそれほど単純でないことが,最近の研究で指摘されていた。
研究グループは,銀河系バルジの方向ですでに発見されていた6500個以上のミラ型変光星の中から,赤外線での星の色にもとづく新たな方法を利用して,炭素を多く含む可能性のある星を選び出した。南アフリカ天文台の1.9メートル望遠鏡での分光観測を行なってスペクトルを取得し,8個の天体が実際に表面に炭素の多い星であることを確認した。
バルジにあるミラ型変光星のほとんどは酸素を主成分とする固体微粒子を星間空間に放出しているが,今回発見された天体は炭素を主成分とする固体微粒子を放出している。少数ながら,異なる化学組成を持つ固体微粒子を放出するミラ型変光星があることは,バルジを構成する星の集団の複雑さを示す新しい証拠となる。
新たに見つかった炭素すすを放出するミラ型変光星の年齢などははっきりとわかっていないが,バルジがどのように星を作ってきたのかという銀河系の歴史を探るための重要なヒントを与えてくれるものと期待されるという。