東北大学の研究グループは九州大学と共同で,静磁波の分散関係を簡便に決定する「新しいスピン波の分光法」を開発した(ニュースリリース)。
スピン波の性質の理解は、スピントロニクスにおける重要な課題の一つだが,これまでの分光法では,マイクロメートルスケールのスピン波(静磁波)を捉えることが非常に難しかったため,スピントロニクスで最も利用される静磁波の分散関係を直接測定することは困難だった。
一般に,物質に光を当てると,物質内部の揺らぎを反映した光が出力される。分光法ではこの出力光を観察し,どの周波数の光がどれくらい含まれているかを調べる。磁石の中でスピン波が立っていると,光がスピン波に散乱されることで,出力光にはスピン波の振動数だけずれた周波数成分が含まれる。
静磁波によるこの周波数変化はGHz(ナノ秒)程度と,光の周波数に比べて圧倒的に変化が小さい。そのため,この変化を光学的に分離することは極めて難しかった。
今回開発された新手法は,この静磁波の分散関係を測定することを可能にした。「スピン・ウエーブ・トモグラフィ(SWaT)」と名付けられたこの手法は,磁気光学イメージングと呼ばれる磁化測定技術とフェムト秒レーザーを用いた超高速測定とを併せたもので,時間ドメインでの出力光観測に高度な信号処理技術を組み合わせて分光を実現した。
従来の原子炉を必要とする中性子線や,複雑な検出系が必要な光学手法と異なり,この手法は実験室レベルで実現可能な測定システムを実現する。このシステムによって,スピントロニクスに利用される様々な物質におけるスピン波の性質を簡便に測定することが可能になった。
今回新たに開発した分光法では,高速時間分解磁気イメージングの技術を応用してサブナノ秒の波の変化を電気的に検出して分光すること(フーリエ変換法)に成功した。この測定手法を用いて,典型的な磁性材料であるLu2.3Bi0.7Fe4.2Ga0.8O12のスピン波を観測したところ,理論的に予想されていた静磁波領域の分散関係がはっきりと確認された。
これにより,実験室レベルで実現可能な静磁波の分光が実現された。今後このシステムは,様々な物質におけるスピン波の性質を簡便に調べることを可能とし,スピントロニクスの発展に貢献するとしている。