東京大学,九州大学のグループは,大型放射光施設SPring-8の東京大学放射光アウトステーションビームラインBL07LSUを用いて,高分子電解質ブラシ中に存在する水が氷に似たネットワークを持つことを見出した(ニュースリリース)。
固体基板上に高密度に固定化された高分子電解質は高分子電解質ブラシと呼ばれ,水中において固体に良好な潤滑性や防汚性を付与できるため,新たな表面高機能化材料として近年注目されている。
この優れた機能性は,高分子電解質ブラシが超親水性と呼ばれる極めて水になじむ性質によって発現すると考えられている。水分子(H2O)は酸素原子(O)と二つの水素原子(H)で構成されていて,1分子あたり合計4つの水素結合を形成することができる(水のネットワーク)。
超親水性は,高分子電解質ブラシに取り込まれた水のネットワークが,ブラシ表面の水のネットワークと滑らかにつながることによって発揮すると考えられている。しかし,高分子電解質ブラシ中の水がどのようにネットワークを形成しているのか,その詳細は分かっておらず,材料設計の指針を立てることができなかった。
そこで研究グループは,この高分子電解質ブラシ中の水の水素結合構造を解析するために,軟X線吸収・発光分光を用いて結合に関与する電子の状態を直接観測した。
その結果,高分子電解質ブラシ中の水は,室温でありながら氷のようにほぼすべて水素結合でつながれており,氷よりは歪んだ水素結合構造を持っていることがわかった。この氷様の水はブラシ表面の水と異なるネットワークを持つため,超親水性を阻害する方向に働くものと考えられるという。
この研究は,高機能性表面を持つ高分子電解質ブラシ材料の開発に役立つのみならず,生体適合性材料や細胞中の水のように,界面やナノ空間の水が発現する機能を解明する上でも役立つ成果だとしている。