理化学研究所(理研)らの国際共同研究グループは,惑星分光観測衛星「ひさき」(SPRINT-A)により,木星オーロラの爆発的増光を発見した。さらに,ハッブル宇宙望遠鏡と木星探査機ジュノーによる観測データを組み合わせることで,木星周囲の広範な宇宙空間におけるエネルギー輸送機構の存在を示した(ニュースリリース)。
木星のオーロラは,木星周辺の宇宙空間からのガスが木星磁場に沿って極域に降り込み,大気と衝突したときに発光する。このガスの一部は,木星の自転や磁場がエネルギー源となり何らかの過程により加速され,光速の99%以上の速度を得ると考えられている。しかし,エネルギーがどこからどのように輸送され,ガスがどのように加速されるのかは不明だった。
先行研究では,木星から遠方の宇宙空間に何らかの過程で蓄積された電磁的なエネルギーが,突発的に解放され木星方向に輸送される過程で,ガスの加速やオーロラの励起が起こるという仮説が提案されているが,実証はされていなかった。
今回,国際共同研究グループはひさきによる木星の「連続監視」とハッブルによる「高解像度撮像」によって,数時間程度で爆発的に増光するオーロラを発見した。そして観測結果から,オーロラの増光領域が木星極域の中緯度から低緯度に動いており,遠方の宇宙空間に高エネルギーのガスが出現し,その後,木星近傍に到達していることが分かった。また,この爆発的増光の約15時間前に,ジュノーは木星へ伝搬する太陽風が作る衝撃波を検出している。この時期,衛星イオの火山活動も活発だった。
以上の観測から,木星の遠方に蓄積された火山ガスと木星磁場のエネルギーが,太陽風の衝撃波により解放され(磁場のエネルギーがガスに移動する)高エネルギーガスを生み出し,加速された高エネルギーガスが木星近傍へ輸送されたと解釈できる。これは,先行研究のエネルギー解放・輸送の仮説を強く支持するもの。
木星の周囲には,地下に液体の水の海があり地球外生命が存在している可能性がある氷衛星がある。今回の発見は,これらの氷衛星の周辺へ高エネルギーガスが輸送されていることを示すことから,今後,この高エネルギーガスが氷衛星の生命環境に及ぼす影響を調査することで,地球とは全く異なる生命環境の理解につながるという。