日本電信電話(NTT)は,トランジスタ内でランダムな方向に動く電子(熱ノイズ)を観測し,一方向に動く電子のみを選り分けることで電流を流し,電力を発生することに成功した(ニュースリリース)。これは,熱力学分野で長年パラドックスとして議論されていたマクスウェルの悪魔の原理を利用することで実現したもの。
熱ノイズは無秩序な電子の動きであり,電子の動きを平均化すると,どの方向にも動いていない。一方,電流は一定の方向への電子の流れ。通常,外部電源などを用いず,無秩序な熱ノイズから,電流という秩序性を持った動きを生み出すことはできない。
しかし,もし個々の電子の動きを観測し一定の方向に動く電子のみ選び出すことができれば,電流を生成することができることになる。この,電子を選び出す作業をするのが「マクスウェルの悪魔」と呼ばれるもので,150年以上前に思考実験として提案された。しかし,実際に「マクスウェルの悪魔」を実現することは困難であり,これまでの実験は基本的な原理実証に留まっていた。
NTTは,ナノメートルスケールのシリコントランジスタから成る単電子デバイスを用いて,熱ノイズから電流を生成することに成功した。トランジスタ内の電子一個の動きを観測し,その結果に基づいてトランジスタを操作する技術を用いた。これにより,初めて「マクスウェルの悪魔」を利用した熱ノイズからの電力の生成が実現できた。
ここで得られた知見は,電子デバイスの消費電力の下限や,生体中の微小な熱機関におけるエネルギー変換効率と深く関係しており,これを利用することにより,新たな高効率デバイスの創生に繋がると期待されるとしている。