奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)と台湾国立交通大学理学院の共同研究グループは,光が物質に当たると生じる圧力(光圧)を用いることにより,アルツハイマー型認知症やパーキンソン病発症の原因となるアミロイド線維というタンパク質の凝集体を,溶液中の任意の場所に,また望む時に人工的に作製する技術を世界で初めて開発した(ニュースリリース)。
アミロイド線維はタンパク質が規則的に連なった集合体であり,その人体内での沈着は様々な疾患に関与している。アミロイド線維と関連のある疾患の治療や予防法を開発するには,その生成メカニズムを理解することが不可欠となる。
しかし,これまでアミロイドの生成場所と時間を予期したり,制御したりすることは不可能とされており,これがアミロイド線維の生成メカニズムを解明するうえで障壁となっていた。
今回,光と分子の相互作用によって生じる「光圧」を駆使し,レーザー照射によって溶液中で心臓に多く存在するタンパク質であるシトクロムcの複合体を局所的に集め,これを材料に球状のアミロイド線維凝集体を狙い通りの特定の場所に作製することに成功した。この球状生成物はアミロイド線維の存在を示す色素マーカーであるチオフラビンT存在下で非常に強い蛍光を示す。
また,この球状凝集体を超音波処理によってほどくと,アミロイドに特徴的な線維構造があることを透過型電子顕微鏡によって観察することができる。これらの結果は,球状生成物はアミロイド線維の凝集体であることを証明している。
さらに,光のオンオフにより球状アミロイド線維凝集体を連続的に作製し,光を操作することで溶液中において凝集体を配列することも可能。この結果により,アミロイド線維の強固な構造を利用した次世代のナノテクノロジーの素材などの新規材料としても期待されている。