京都大学,山口大学,東京工業大学,法政大学,立教大学,日本女子大学は共同で,葉緑体がもつ「葉緑体DNA(葉緑体核様体)」の分配(遺伝)を制御する遺伝子MOC1と,この遺伝子がコードする葉緑体型ホリデイジャンクション解離酵素を発見した(ニュースリリース)。
光合成の場である葉緑体には,シアノバクテリアを起源とする独自の葉緑体DNAがあり,それが多様なタンパク質によって折りたたまれて「核様体」を構築する。葉緑体核様体は,いわば葉緑体にとっての「核」であり,細胞核の場合と同様に,その複製・分配は葉緑体の分裂に先立って行なわれる。
核様体の複製や分裂・分配(遺伝)は光合成の維持や植物の生存上必須な要素だが,これがどのようなしくみで制御されているのかは不明だった。
研究グループは,葉緑体核様体の観察や遺伝学的解析が容易な単細胞緑藻クラミドモナスを対象とした。葉緑体核様体の形が異常なmoc変異体を単離し,その原因遺伝子同定の過程で,MOC1という未知の遺伝子に辿り着いた。この遺伝子は緑藻だけでなく陸上植物においても広く保存されている。
MOC1がコードするタンパク質の構造予測を元にした生化学的解析を行なったところ,このタンパク質がホリデイジャンクションの中央に結合して,構造を正確に切断する葉緑体型ホリデイジャンクション解離酵素であることが明らかになった。
さらにDNAオリガミ(長いDNA鎖と「のり」の働きをする短いDNA鎖を組み合わせ,さまざまな構造を設計できる技術)と原子間力顕微鏡技術を組み合わせ,ホリデイジャンクションが切断される様子の観察に挑戦した。その結果,MOC1タンパク質がホリデイジャンクションの中央部に結合し,切断する様子をはっきりと捉えることに成功した。
ホリデイジャンクションとはDNA損傷の修復,複製,減数分裂の際にみられる,DNA配列がよく似た部分同士で組み換え(相同組み換え)が進む過程であらわれる構造だが,葉緑体核様体ではこの構造がどのように切断されているかわかっていなかった。
今回の基礎的な発見から,葉緑体における相同組換え機構の解明,さらには新たな物質生産に向けた応用研究への展開も期待されるとしている。