日本電信電話(NTT)は,光の波長よりはるかに細い半導体ナノワイヤをシリコンフォトニック結晶上に配置し,光ナノ共振器を自発的に形成することで,光通信波長帯において初めてナノワイヤによるレーザー発振,および高速変調動作を実証した(ニュースリリース)。
省エネで大容量の通信を実現するために,シリコン回路内に集積が可能で低消費電力の超小型レーザの実現が期待されている。レーザの消費電力を下げるためには,光増幅部の体積を小さくすることが鍵となる。半導体ナノワイヤは,大量製造と様々な機能添加が可能な非常に細い材料(ナノ材料)であり,超小型レーザーの光増幅部への応用が期待されている。
しかし,直径が光の波長より細いナノワイヤでは,ナノワイヤ中に十分光を閉じ込めることができないためレーザー発振は難しく,変調動作もこれまで達成されていない。また,シリコン回路内で用いるためにはシリコンが透明になる光通信波長帯での動作が必須だが,この波長帯では一般に材料の光利得が小さいため,これまでナノワイヤレーザーは可視光付近の波長でしか発振していなかった。
今回NTTでは,化合物半導体ナノワイヤとシリコンフォトニック結晶を組み合わせたハイブリッド構造を作製した。フォトニック結晶とは人工的に作る屈折率が周期的な分布を持つ構造で,光を強く閉じ込める作用を持つ。今回,波長よりもはるかに細く(直径約100nm)光通信波長帯で発光する半導体ナノワイヤを,シリコンフォトニック結晶中の溝の中に配置することにより,ナノワイヤ中に光を強く閉じ込める光ナノ共振器を実現した。
このハイブリッド構造を用いて光励起による光通信波長帯でのナノワイヤレーザーの連続発振動作を世界で初めて達成し,このレーザーを用いてナノワイヤとしては世界初となる10Gb/sの高速変調動作にも成功した。
この技術は,シリコンチップ上の光回路内に極小体積の化合物半導体ナノワイヤをベースにしたナノレーザーを集積することを可能とし,将来プロセッサチップ内に低消費電力の大規模光集積回路による光ネットワーク処理の導入を可能とする新しい集積技術として期待される。
NTTは今後,このレーザーを同じチップ内のフォトニック結晶導波路へ結合させることによって,光回路内での使用を可能とすることを狙う。また,ナノワイヤとフォトニック結晶の構造を最適化し,光閉じ込め特性をさらに向上することにより,室温レーザー発振の実現を目指す。さらに,この手法を用いてレーザーだけでなく,光受光器や光スイッチなどのデバイスをナノワイヤを用いて実現することも目指す。
最終的には,様々な異なるデバイスが同じチップの中に導波路を介して接続された集積光回路の実現を目標とする。その際には,それぞれのデバイス機能に応じたナノワイヤを配置すればよいので,今回の手法が活かされる。これらの技術を他のナノフォトニクス技術とも組み合わせることにより大規模光集積技術を確立し,今から10年~15年後に本格的にプロセッサチップの中へ光ネットワークを導入し,低消費エネルギーで超高速の情報通信技術の実現を目指す。