分子化学研究所准教授の中村敏和氏は,日本物理学会第22回論文賞を受賞した(ニュースリリース,日本物理学会ページ)。
日本物理学会論文賞は,「Journal of the Physical Society of Japan」及び「Progress of Theoretical Physics」誌に過去10年以内に発表された論文のうち,独創的な研究で物理学に重要な貢献をしたものに与えられるもので,今年は5編の論文が選出された。
この論文は,擬2次元分子性導体α-(BEDT-TTF)2I3に軌道放射光による精密なX線構造解析法を適用し,電荷秩序状態(電荷不均化構造)を解明している。実空間における電荷配列を定量的に決定し,低温の絶縁体相が理論的に予測されている水平ストライプ構造と呼ばれる特徴的な電荷秩序状態であることを実験的に初めて明らかにしている。
さらに,分子配列を精密に決めることで,結晶内の様々な分子軌道間の重なり積分の空間的なネットワークを決定し,電荷秩序相が非磁性状態をとることも明らかにしている。
この成果は,後に同じ物質で観測された電荷秩序絶縁体状態における電子型強誘電性の発現,光パルスによる電荷秩序の高速融解,電場パルスによる強誘電分極の高速制御等の新奇誘電性や光機能性に関する研究の進展に結びついている。今回の受賞は,理論的に予測されていた電荷秩序状態を実験的に解明し,新たな研究の進展の基盤になったことが高く評価されたもの。