千葉大学の研究グループは,分子の自己組織化を制御する仕組みを解明した(ニュースリリース)。この発見は,太陽電池などの有機デバイスを新たな仕組みで構築し,低コスト化・大面積化を実現するうえで重要な指針となるもの。
分子が集合して自発的に秩序ある構造と新たな性質を生み出す自己組織化現象は,同じ分子でも条件によって異なる集合構造を持つ。すなわち,狙いの機能をもった分子を設計・合成したとしても,望まない自己組織化構造を形成してしまう可能性があるため,自己組織化現象を制御することは,分子材料の研究において重要となる。
研究では,多点水素結合と呼ばれる分子間相互作用を利用し,半導体性を持つ分子の自己組織化を極めて精密に制御することに成功した。「バルビツール酸」と呼ばれる多点水素結合部位を「オリゴチオフェン」と呼ばれる汎用性半導体分子に結合させた構造の異なる分子2種類を合成し,それらのわずかな違いを利用して,様々な条件下で集合構造を制御することに成功し,分子が高い精度で階層的に組み上がる仕組みを解明することができた。
さらに,上記の方法で得られた集合構造の1つは,電子物性が異なる材料とよく混ざり合う性質をもち,水素結合性材料としては世界最高の太陽電池としての性能を示すことも明らかになった。実験では太陽電池の効率は3%を超え,これはナノレベルの構造の違いが太陽電池の性能に多大な影響を与えることの証明だとする。
分子の自己組織化を利用した有機デバイスは,低コスト化・大面積化の観点から無機デバイスや従来の蒸着法を用いた有機デバイスよりも優れており,今後さらに発展することが期待される。これまで,分子がどのように自己組織化するかを分子構造から予測・設計することは困難だったが,近年になって,次第に狙い通りに分子を自己組織化させることができるようになりつつある。
この成果はその発展をさらに加速化する重要な知見を与えるもの。自己組織化を利用した太陽電池の実用化も,近い将来実現できるとしている。