物質・材料研究機構(NIMS),京都大学,大分大学からなる研究チームは,排ガス浄化触媒活性を持つロジウム(Rh)と銅(Cu)からなる合金ナノ粒子において,Rh組成(ここでは原子数比)が変わっても同等の触媒活性を示すナノ粒子の電子状態を初めて明らかにした(ニュースリリース)。
Rhは,自動車などの排ガス浄化触媒として期待されており,コスト低減のため使用量を削減することが求められている。これまで,京都大学によって,バルクでは合金になり得ないRhとCuの合金ナノ粒子が作製され,大分大学によって,この合金ナノ粒子が,Rh組成を減らしてもRh単体のナノ粒子と同等に排ガス成分を酸化する触媒活性を持つことが確かめられている。
組成が異なれば電子状態が変化すると考えられる一方,触媒活性は材料の電子状態と密接に関係するとも考えられるため,このRh-Cu合金ナノ粒子系の電子状態には興味が持たれていたが,実験の困難さからこれまで調べられておらず未解明だった。
そこで今回,NIMSが中心となり,Rhの組成が異なる複数のRh-Cu合金ナノ粒子の電子状態を初めて観測した。ナノ粒子の電子状態をエネルギーの低い通常の(軟)X線を使った光電子分光測定で調べる場合,ナノ粒子の凝集を防ぐための表面保護材に阻まれるためにナノ粒子自体の電子状態を正確に評価するのは極めて難しい。
そこで保護材を透過することのできるエネルギーの高い(硬)X線を用いて,ナノ粒子全体から電子状態の情報を得るために,大型放射光施設(SPring-8)のビームラインを用いて光電子分光測定を行なった。
約8割がRhである高Rh組成のタイプと,約半分がRhで残りがCuである2つのタイプの合金ナノ粒子の電子状態(酸化数)を調べた。その結果,Rh組成が多いタイプでは,Rhナノ粒子と類似の酸化状態が観測されたが,Cu組成が約半分であるタイプではRhナノ粒子で観測されたRhの酸化状態をもつ割合が減り,Cuの酸化成分が増大することが観測された。
同じ触媒活性を持つ2種類の合金ナノ粒子の酸化数が異なるという今回の研究成果は,触媒等の新機能性物質の創製において,より詳細な電子状態の評価が重要であることを示している。
研究グループは今後,触媒活性と電子状態の関係について理論的な検討も進めると共に,新機能性物質の創製をますます加速させるため,合金ナノ粒子以外の様々な物質についても,電子構造や原子配列に関するデータを提供し,データを活用した情報統合型物質・材料研究(マテリアルズ・ インフォマティクス)の基盤を形成していくとしている。