産業技術総合研究所(産総研)は,スピントルク発振素子の高周波出力を,10μWを超えるまでに向上させることに成功した(ニュースリリース)。
スピントルク発振素子は,自励発振ができるため水晶振動子の発振器では不可欠だった共振器が不要になり,デバイスサイズをミリメートルからマイクロメートルサイズ以下に小型化でき,既存の半導体製造プロセスとの整合性も高い。
一夫で,スピントルク発振素子は,高周波出力が小さい,発振周波数の安定性が低いといった課題があり,基本性能の向上が求められている。
スピントルク発振素子の高周波出力は磁気抵抗比の2乗に比例するため,高出力化には磁気抵抗比の増大が有効となる。約1㎚の極薄の酸化マグネシウム絶縁体層と,鉄合金強磁性層を組み合わせ,強磁性層を4㎚と厚くすると,渦巻き状の磁化構造(磁気渦)をもつ磁気渦型スピントルク発振素子となる。
このタイプの素子は強磁性層が厚いため,大きな磁気抵抗比と高周波出力が得られやすい。今回,磁気渦型の磁化構造をもつスピントルク発振素子(磁気渦型スピントルク発振素子)の磁気抵抗比を190%まで向上させ,スピントルク発振素子として初めて10μWを超える出力を達成した。これは無線通信などで一般的に用いられる水晶振動子に匹敵する出力。
今後,スピントルク発振素子の高周波特性をさらに向上させて,安価で小型の高周波発振器の実現を目指す。今後は実用に耐える程度に周波数安定性を向上させるとともに,開発が進められているハイエンド水晶振動子の周波数帯域である2-4GHz帯域をターゲットに研究を行なう。