物質・材料研究機構(NIMS)は,真空中において有機分子とサファイア基板間に生ずる摩擦力の大きさをレーザー光の照射の有無で繰り返し変化させられることを見出した(ニュースリリース)。
加速度センサーやジャイロスコープなど微小な装置の駆動部として使用されるマイクロマシンは,凝着力 (複数の物質が互いにくっつこうとする力) の影響が非常に大きく,その部分に生じる摩擦力が増大すると駆動部の運動が大きく阻害されるため,摩擦を低減させる必要がある。
また,摩擦力の増減を制御することができれば,マイクロマシンの運動自体の制御につながり,用途の拡大や機能性の向上が期待できる。これまで,摩擦力の低減により運動性能を向上させる目的で,マイクロマシンの主な材料であるシリコン基材にダイヤモンドライクカーボン,自己組織化単分子膜,フッ素系有機膜などをコーティングする技術が注目されてきた。
しかし,これらのコーティングは,一旦材料が決まると,その材料の組み合わせに起因して摩擦係数が決定されるために,コーティング後に摩擦力を制御することは困難だった。
研究グループは,真空中において有機分子にレーザー光を照射することにより,それら分子を電子励起状態にし,固体基板との間に生ずる凝着力を変化させ,摩擦力の大きさを変化させることが可能であるかという点に着目し研究を行なった。
有機分子をコーティングしたカンチレバー (片持ち梁) 探針とサファイア基板との間で生じる摩擦力の大きさを,走査型プローブ顕微鏡技術の一つである摩擦力モードを用いて測定したところ,レーザー光を測定場所に照射することで,摩擦力が約15%増大することを明らかにした。さらに,レーザー光のON-OFFにより繰り返し摩擦力を増減することができた。
今回見出された光による摩擦力制御は,マイクロマシンの運動制御を可能としたり,摩擦の基礎メカニズムの解明に寄与する結果だとしている。また,今回は光によるナノレベルの摩擦力の制御だが,今後はマクロレベルの摩擦現象の制御へも展開されることが期待できるという。