産総研ら,高速/大容量光ディスク材料を開発

産業技術総合研究所(産総研)はダイキン工業と共同で,大幅な多層化と高速な記録が可能な長期間保存用光ディスク向け記録材料を開発した(ニュースリリース)。

データの長期保管には低消費電力で,維持管理に手間のかからない大容量の長期保存媒体が必要となる。現状のハードディスクや磁気テープはその点で十分とは言えず,光ディスクの活用が期待されている。一方,それらを置き換えるには光ディスクは記録容量や記録速度の点に問題があった。

今回の技術は,実効的に二光子吸収の強度を増加させる多段階多光子吸収を用いて高感度化し,あらかじめ記録材料にホログラムを形成しておくことで記録信号の再生のコントラストを高めて,光記録形成に必要な照射時間を短くし,高速な記録を実現した。

従来の技術ではごく短い時間幅を持つレーザーパルスを何回も連続照射していたが,今回開発した技術ではそれらよりも長い時間幅のナノ秒パルスを1回だけ照射する。ピコ秒,フェムト秒レーザーパルスでは二光子吸収だけが起こり,その後に発生する熱量が限られていたため,何回も繰り返しての照射が必要となり照射時間が長くなっていた。

一方,ナノ秒パルスでは二光子吸収の後に一光子吸収である励起状態吸収が起こる多段階多光子吸収が生じる。励起状態吸収と熱を発生する緩和とが繰り返し起こるので実効的な二光子吸収の強度が増加し,発熱量は桁違いに増加する。

今回の技術では記録材料中にあらかじめ再生用のレーザー光を高効率で反射するようにホログラムが形成されており,多段階多光子吸収で発生する熱によりこのホログラムを乱すことで記録が形成される。ホログラムはわずかに乱されただけでも反射光の強度が大きく低下するので高コントラストの再生ができ,記録に必要な時間をさらに短縮できる。

この結果,8ナノ秒パルスの1回照射でも光記録を形成でき,これは100Mb/sの書き込み速度(Blu-rayディスクの記録速度の3.5倍)に相当する。

この原理に基づき,Blu-rayに用いられる波長405nmのレーザーで記録と再生を行なった。記録材料にあらかじめホログラムを作成してあるので再生光を照射すると強い反射光が得られるが,8ナノ秒のレーザーパルス照射により記録を形成すると反射光の強度が低下した。材料中の観測する位置を変えながら反射光を測定すると記録が形成された場所では反射光の強度が低下し,反射光強度の差として,実用的なレベルのシグナル-ノイズ比(15デシベル)で記録を再生できた。

形成された記録ピットのサイズは深さ方向で2.7㎛であり,100㎛厚の記録層では20層の多層化が可能。面内方向のサイズは0.7㎛で現状ではDVD程度の記録密度だが,もしBlu-rayディスクのレベルまで記録密度を向上できれば100㎛厚の記録層で50層1.25TBの記録が可能となるという。

さらに今回開発した記録材料の透過特性から800㎛厚の記録層が可能と考えられ,400層,10TBの保管記録向け超多層光ディスク記録(現行Blu-ray400枚分が1枚)が可能になると見込まれるとしている。

今後は高密度記録と超多層化の実証を進めるとともに,無機材料との複合化による耐久性向上も含めたディスクとしての実用耐久性の評価,光源の小型化,ドライブ開発など他企業の参画も募り実用化に向けた研究開発を進めるとしている。

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