理研,有機両極性半導体を低消費電力化

理化学研究所(理研)は,有機両極性半導体を用いたデジタル回路デバイスの基板にアルキル処理を施すことで,流れるキャリアの種類(電子,正孔)を制御し,消費電力を大幅に低減する手法を開発した(ニュースリリース)。

有機半導体は材料の溶液を塗布することにより,容易に,かつ低エネルギーなプロセスで半導体層を形成することができる。さらに,インクジェットや輪転機など既存の印刷プロセスを適用することで大面積化も可能で,製作コストも無機半導体に比べ低いというメリットがある。

しかし,デジタル回路を製作するためには,正孔伝導型・電子伝導型の2種類の有機半導体を用意し,それぞれの塗り分けをしなければならず,印刷による回路製作は容易に実現できるものではなかた。一方,両極性半導体は正孔,電子の両方のキャリアを利用できるため,1つの材料でデジタル回路を製作することが可能。

このため,有機半導体と両極性半導体の両方の特性を持つ有機両極性半導体を用いれば,単一の材料を塗布するだけでデジタル回路を製作することができる。しかし,両極性半導体には,電子と正孔が無差別に流れてしまうため消費電力が大きくなるという致命的な欠点が指摘されており,実際には有用な材料ではないと考えられてきた。

一方2015年に,基板上に製作した単分子膜が有機半導体中に電荷層を形成し,有機半導体の特性に影響を与えることが報告された。研究チームは,両極性半導体のキャリアの種類を制御する方法として,この電荷層に着目した。

マイナスに帯電したフッ化アルキルの単分子膜によって有機両極性半導体中にプラスの電荷層を発生させ,電子キャリアを捕集し,正孔のみを伝導させることに成功した。また,プラスに帯電したアミノアルキルの単分子膜を用いることで,電子のみを伝導させることも可能。このキャリア制御法によって,有機両極性半導体を用いながらも低消費電力なデジタル回路が実現できた。

今回,有機両極性半導体のデメリットを解消し,十分な低消費電力化が可能であることを実証したことで,今後,有機両極性半導体を用いた,次世代に最適な軽量,柔軟,低コスト,省エネルギーなエレクトロデバイスの実現が期待できるとしている。

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