早稲田大学,大阪大学,量子科学技術研究開発機構,浜松ホトニクスは,「手のひらサイズ」の超軽量コンプトンカメラ(重量580グラム)を開発した(ニュースリリース)。
分子イメージングとは生体内に薬剤を投与し,これをマーカーとすることで分子の動きを可視化する技術。特に,ガンやアルツハイマー病の早期発見に有効なPET(陽電子断層撮影)では,病変細胞がブドウ糖(グルコース)を過剰に摂取する性質を利用してマーカーを集積させる。
PETは数ミリ程度の解像度を実現するが,マーカーとして使える薬剤はポジトロン生成核種のみで,511キロ電子ボルトの対消滅ガンマ線のみしか利用できない。任意のエネルギーのガンマ線を可視化することができれば,使えるマーカーも多種多様となり,生体内の動態や代謝過程などをPETより多角的かつ総合的にトレースすることが期待される。
今回,研究グループでは環境計測用に開発したコンプトンカメラの高精度化に挑み,世界最軽量かつ高解像度の医療用コンプトンカメラの開発に成功した。これまで,ゲルマニウムやSi/CdTe半導体検出器を用いたコンプトンカメラで同様な多色イメージングが試みられてきたが,この装置は過去に例のない「手のひらサイズ」の小型化と軽量化(半導体検出器を用いた従来装置の約1/10),「高感度」を両立した。
開発した装置の重量は580グラム・大きさは4.9×5.6×10.6cmの超小型装置だが解像度・感度ともに優れ,40mm先にある1MBqのガンマ線源(300~2000keV)をほぼリアルタイムに可視化でき,かつPETと同等の解像度(約3mm)を実現した。さらに,小型軽量を生かしたマルチアングル撮影を行なうことが可能となり,3次元かつカラー放射線イメージングが可能となった。
このカメラを使い,3種の異なる放射性薬剤を投与した生体マウスの3D同時分子イメージング(365keV,514keV,1116keV)に成功した。さらに,一回あたり10分,30°おきのマルチアングル撮影を実施し,薬剤の3D分布を可視化することにも成功した。
このカメラは分子イメージングだけでなく,次世代放射線治療,とくにホウ素中性子捕獲療法(BNCT)で生ずるガンマ線モニタなどへも広く応用が期待されるとしている