慶大ら,分子の衝突過程に核スピン依存性を発見

慶應義塾大学と産業技術総合研究所,横浜国立大学らは共同で,分子の衝突過程に核スピン依存性があることを発見した(ニュースリリース)。

試料気体の圧力が上がると分子間の衝突頻度が増え,吸収スペクトル線の中心周波数がシフトし,線幅が大きくなる。アセチレン分子の吸収スペクトル線は光通信で重要な波長1.5μm帯の周波数基準として使われるため,試料気体の圧力でスペクトル線がどのように変化するか,ランプやレーザーを光源にして盛んに研究されてきた。

通常,2つのボールが運動して接触すると衝突したと言う。しかし,2つの分子は,離れたまますれ違うだけでも分子間に働く電気的相互作用のため影響しあう。この過程が分子衝突では重要。したがって,分子衝突は乱雑な過程ではなく,電気的相互作用で決まる規則があることが知られている。

試料圧力によるスペクトル線の中心周波数のシフトや線幅の増加はこの規則に従う。分子間では電気的相互作用が核スピンによる磁気的相互作用よりはるかに大きく,実際にも,衝突過程に核スピン依存性はこれまで観測されてこなかった。

今回,研究グループは,デュアル・コム分光計を用いてアセチレン分子の50本を越す振動回転遷移の吸収スペクトルを6つの試料圧力下で記録した。これらを解析して各圧力,各振動回転遷移のスペクトル線の中心周波数と圧力による線幅(圧力幅)を決定した。

中心周波数のシフトと圧力幅は圧力によく比例し,それぞれの比例係数を精度良く決定した。得られた圧力幅の比例係数をみると,オルト分子がパラ分子より圧力幅が最大10%ほど広いことがわかった。

デュアル・コム分光計が,従来の測定方法に比べ波長帯域が広く測定時間が短いため,多数のスペクトル線を均一の条件で記録できた結果,この違いを発見できたという。

この成果は,分子衝突の基礎理論から,地球や天体の環境を大気のスペクトルから推定するモデルにまで影響を与えるものだとしている。

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