量子科学技術研究開発機構(量研機構)らは,南フランスのサイト及び青森県六ヶ所村間を専用ネットワークにより結び,国際熱核融合実験炉の初期実験で想定される1実験当たり1TBのデータを,想定される実験間隔内(30分内)で繰り返し安定して高速転送(毎秒約7.9Gb/s)できることを初めて実証した(ニュースリリース)。
これは,日欧で進めている幅広いアプローチ活動(BA活動)の実施機関として,量研機構が自然科学研究機構核融合科学研究所(核融合研),情報・システム研究機構国立情報学研究所(NII),及びイーター国際核融合エネルギー機構と共同で,現在建設中の国際熱核融合実験炉イーター2(イーター)の南フランスのサイト,及びBA活動に基づき青森県六ヶ所村の国際核融合エネルギー研究センター(IFERC)事業で整備中のイーター遠隔実験センター(REC)に設置された一対一のサーバー間で行なわれたもの。
科学技術データは,欠損なく送信することが必要なためTCP転送プロトコルが広く用いられているが,データ送信の確認を頻繁に行なうため,長距離では転送速度が著しく低下することが課題だった。
そこで,NIIが先端科学技術分野の国際協力に向けて開発した世界最速レベルの転送プロトコル(MMCFTP)を導入するとともに,NIIが本年4月から運用を開始した「SINET5」による日本から欧州への直通回線を用いることで通信距離を縮め,通信容量の大きい回線(10Gb/s)をイーターサイトからRECまで構築した。
この回線により,核融合研のLHD装置で生成された大量実験データを用いて,イーターで想定される全データの想定実験間隔内での転送を実証することに成功した。これは,量研機構が,BA活動のために整備した広帯域ネットワークを,SINET5のネットワークに接続し,イーター機構の協力を得て実現した成果。
これによって,1万キロ離れた日本からのイーター遠隔実験参加の実現に向けた基盤整備が大きく進展した。また,大陸(フランス〜日本間)をまたぐサイト間での長距離伝送における1日当たりのデータ転送量としては,世界最大クラス(1日当たり50TB)であり,RECの構築に向けた大きな一歩となった。
今後,産業界等で生み出される大量データを遠距離で活用するためのミラーサイトや巨大災害発生時に備えた遠距離でのバックアップの開発に役立つことが期待できるとしている。
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