東京工業大学,東北大学,物質・材料研究機構らの研究グループは,スマホやパソコンのトランジスタに使われている酸化ハフニウムを基本組成とした,強誘電体の電源を切った時に貯められる電気の量や,使用可能な温度範囲といった基礎特性を解明した(ニュースリリース)。
強誘電体は薄くしていくと,特性が低下する“サイズ効果”があり,メモリの高密度化が実現できない。5年前に酸化ハフニウム基の物質で,これまで不可能と考えられていた薄くても強誘電性が発現できることが報告され,大きな注目を集めた。
しかし,これまで作製されてきた薄膜は多結晶であり,不純物相も一緒に存在するため,酸化ハフニウム基強誘電体の基本的な性質はほとんど明らかになっておらず,実用化のための最大の問題であった。
研究グループは,15nmまで薄くても特性が劣化しない強誘電体単結晶膜の作製に成功した。さらに結晶構造が類似しているインジウム・スズの酸化物(ITO)の薄膜を電極として用い,酸化イットリウム結晶の方向を制御した単結晶膜を,電極上に作製することに成功した。
電極上に作製した単結晶膜を用いることで,強誘電体相が 400℃以上の高温 まで安定に存在することを明らかにし,さらに薄膜の強誘電特性の取得に世界で初めて成功した。
得られた結果と結晶方位の関係から,電圧を切った時に貯められる電気の量や使用可能な温度を明らかにした。その結果,従来から使用されている物質チタン酸 ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)やタンタル酸ストロンチウムビスマス(SrBi2Ta2O9) と比較して遜色ない特性を有することが明らかになった。
強誘電体を用いたメモリーは,交通機関の定期券等に使用されている非接触式ICカードとして実用化されている。今回明らかになった優れた特性と,これまでの物質では不可能であった薄膜化しても特性が劣化しない特性を活用すれば,メモリの飛躍的な高密度化が期待できるとしている。
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