JST戦略的創造研究推進事業において,名古屋大学の研究グループは,有機半導体に欠かせない縮環チオフェンを簡便かつ短工程で合成できる新反応を開発した(ニュースリリース)。
硫黄と炭素からなる5員環「チオフェン」を含む芳香族化合物は,縮環チオフェンと呼ばれ,高性能な半導体材料として,トランジスタや有機薄膜太陽電池,有機ELなどの電子デバイスに欠かせない非常に重要な化合物となっている。
また,有機化合物特有の柔軟性も備えていることから,最近では,ウェアラブルデバイスの鍵物質としても広く応用されるようになっている。
これまでに,縮環チオフェンのさまざまな合成法が開発されてきたが,芳香族化合物に新たにチオフェン環を連結させて縮環チオフェンを得る「チオフェン縮環反応」は,複数の工程を要することから,短工程かつ簡便な汎用的合成法が求められていた。
研究では,容易に手に入る芳香族化合物誘導体を有機溶媒中で硫黄と混ぜて加熱しながら撹拌するだけという,非常に簡便な方法によって,芳香族化合物にチオフェン環を連結させ,縮環チオフェンを得る新しい反応を開発した。
この反応を適用すると,本来反応性が低い炭素−水素結合を切断できるため,反応性の高い原料を別途合成する手間を省くことができる。
そのため従来法では,5〜6段階必要であった工程を最短2段階に大幅に短縮できるとともに,高価な試薬を必要としないことから,縮環チオフェンの合成法の決定版として今後広く利用される可能性があるという。
研究グループは,この手法を用いて,20種類の新しい縮環チオフェンを合成するのみならず,有機電界効果トランジスタ材料として優れた性能をもつ分子の簡便な合成にも成功した。今後,この新反応が画期的な縮環チオフェンの登場を促し,有機エレクトロニクス分野の発展がさらに加速することが期待されるとしている。
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