国立天文台ら,夜空に浮かぶ太古の目を発見

国立天文台などの研究者からなる研究チームは,すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラHyper Suprime-Cam(HSC)が撮影したデータの中から,2つの遠方銀河が手前にある別の銀河によって同時に重力レンズ効果を受けている,極めて珍しい重力レンズ天体を発見した(ニュースリリース)。

遠くの銀河から来る光は「重力レンズ効果」によりその手前にある別の銀河によって大きく曲げられることがある。重力レンズ効果は稀で,通常は手前の銀河によって背景にある1つの銀河が効果を受ける。理屈上は複数の背景銀河がレンズ効果を受けることがあってもおかしくないが,そのような現象が発見された例はほとんどなかった。

今回新たに見つかったのは,そのような貴重な重力レンズ天体。背景銀河が2つあるからか,この重力レンズ天体は非常に面白い切れ長の「目」のような形をなしている。古代エジプトの神聖なる神の目に似ていることから,研究チームはこれを「ホルスの目」と名付けた。

「ホルスの目」の画像を詳しく調べると,異なる色をした2つのリング状・円弧状の天体がいることがわかった。これは重力レンズ効果を受けた背景銀河が,1つではなく2ついることを強く示唆しているという。

重力レンズ効果を引き起こしているレンズ銀河本体は,距離70億光年(赤方偏移 z=0.795)にあることが分光観測で分かっていた。しかしながら背景銀河の赤方偏移は未知だったため,研究チームは南米チリにあるマゼラン望遠鏡で新たに観測を行なった。

その結果,2つの背景天体の距離(赤方偏移)を測ることに成功し,それぞれ距離90億光年(z=1.30)と105億光年(z=1.99)にいることがわかった。

すばる望遠鏡では現在,HSCを使って空の非常に広い領域をいまだかつてない精度で観測する大規模なプロジェクト「戦略枠プログラム」を実施している。「ホルスの目」が見つかったのも,この大規模観測で得られたデータからだった。

HSC「戦略枠プログラム」の観測はまだ30%しか終わっておらず,このデータから,今回のような重力レンズ天体がさらに10個ぐらい見つかることが期待されており,銀河の基本物理や過去数十億年にわたってどのように宇宙が膨張してきたのを探ることができまるとしている。

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