物質・材料研究機構(NIMS)の研究グループは,次世代の多機能電子素子として期待されるマルチフェロイック材料において,酸化物ナノシートの積木細工により,実用上重要な室温で動作する新しいナノ薄膜の開発に成功した(ニュースリリース)。
近年,磁石の性質 (磁性) を兼ね備えた強誘電体である「マルチフェロイック材料」が注目されている。このような材料では,磁場を変化させて誘電的な特性(電気分極)を制御することや,電圧を変化させて磁気的な特性を制御することができるため,新しいタイプの記憶メモリやエネルギー変換デバイスへの応用が期待されている。
しかし,これまでに見つかったマルチフェロイック材料のほとんどは,マイナス200℃以下の低温でしかその特性を示さないため,これが実用化に向けた大きな障壁となっていた。
今回,研究グループは,室温で動作するマルチフェロイック材料を開発する新しい手法として,子供のブロック遊びのように,ナノ物質で積木細工をする人工超格子技術に注目した。
この技術を分子レベルの薄さのナノ物質である酸化物ナノシートに応用し,磁石のナノシート(Ti0.87Co0.2O2)と誘電体のナノシート(Ca2Nb3O10)を重ね合わせ,強磁性と強誘電性が共存する人工超格子膜を作製した。そしてこの人工超格子膜が,室温で磁場による電気分極の制御と電場による磁化の制御が可能であることを確認した。
この薄膜は,世界最小レベルの膜厚10nmの極薄膜ながら,室温で安定なマルチフェロイック特性を発揮する。
今回の成果は,マルチフェロイック材料の開発に向けて新たな設計指針を与えると同時に,室温での動作が可能になったことで,マルチフェロイック・ナノ薄膜が持つ多機能性,低電圧動作という特徴を利用した低消費電力型メモリなどへの応用展開が期待されるとしている。
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