大阪府立大学,新日鐵住金ステンレス,日本原子力研究開発機構らは,さびにくい鉄鋼材料として原子炉シュラウドをはじめ最も実用材料として使用されているステンレス鋼SUS304の加工誘起マルテンサイト変態における中間相として六方晶ε相が出現することを明らかにした(ニュースリリース)。
SUS304に応力を加えると結晶構造が変わり,強度や延性が向上することが知られているが,機械的性質のさらなる向上や水素環境中への適用のためには,この相変態のプロセスを解明することが重要となる。
研究ではSPring-8の高輝度放射光を用いることにより,「室温において」今までないとされてきた中間相とその応力依存性を観測,さらに,ローレンツ透過電子顕微鏡観察により,結晶粒界面に生成した中間相を介して新しい相に変態する全く別のプロセスの存在を明らかにした。
これは,放射光回折法による試料全体の定量的観測とローレンツ透過型電子顕微鏡によるミクロな組織観察を組み合わせることで,これまで見出されていなかった室温における加工誘起変態の中間相としてのε相の存在とその相変態のプロセスを明らかにしたもの。
SUS304は優れた機械的性質を持つ材料だが,水素を添加した場合には引張り延性が下がり脆くなることが知られており,実用面において大きな課題となっている。これまで,引張り延性のような性質には,加工誘起変態における中間相の生成が関係していると考えられてきたが,それを実験的に確認することができなかった。
最近の研究から,水素による脆化は室温において高密度のε相が形成されることによって起こることがわかってきた。今回の研究では相変態の過程で生成するε相の様子がミクロなスケールで明らかとなったので,今後,水素によるステンレス鋼の脆化の機構解明と水素環境中で使用する材料提案や材料開発につながると期待されるとしている。
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