東大ら,ユーグレナの変異体を効率的に作出・選抜

内閣府 総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の合田圭介プログラム・マネージャーの研究開発プログラムの一環として,ユーグレナ,東京大学らは,ミドリムシ(学名:ユーグレナ)変異体を効率的に作出し,選抜する品種改良法を開発した(ニュースリリース)。

微細藻類や酵母等の微生物は,変異原処理をすることで野生株とは違うさまざまな特徴をもつ細胞を出現させることが可能であり,その中から有用な特徴をもつものを選抜する技術があれば,産業的な応用につながる株の取得(品種改良)が可能となり,より幅広い活用が期待できる。

今回の研究対象であるユーグレナは,食品素材として産業的に応用がなされているが,他のよく研究されている微細藻類と比較して,効率的な変異原処理,および個体選抜技術が確立されていないため,目的の特徴をもつユーグレナの取得が困難で,希望の形質を示す変異体を獲得できるかも十分に検証されていなかった。

研究グループは,細胞刺激(変異原処理および蛍光染色)を組み合わせることで,遺伝的に多様なユーグレナの集団を作出し,そこから効率的に今回目的とした油脂含有量を多く含むユーグレナの選抜に成功した。

変異原処理として重イオンビーム照射を細胞に行なうと,さまざまな特徴をもった細胞が集団の中に現れる。これをユーグレナに照射してさまざまな特徴をもったユーグレナが含まれる集団を作りだし,それと併せて,セルソーターを利用することによりユーグレナの個々の細胞を観測し選抜する方法を開発した。

特に,種々の条件検討から,選抜時にユーグレナがダメージを受けにくい条件を見いだし,その上で,BODIPY染色により細胞内の油脂を可視化し,蛍光強度の違いを利用して,作り出した多様な細胞集団の中から特に油脂を多く含むユーグレナを選抜できるか検証を行なった。

その結果,野生株より約40%油脂を多く含むユーグレナ変異体を取得することに成功した。このユーグレナ変異体は油脂を多く産生することから,ミドリムシバイオ燃料の原料として優秀であり,生産性の向上に寄与することが期待される。また,この方法を利用することで目的のユーグレナを選抜できることが実証された。

今回ユーグレナを選抜するにあたっては既存のセルソーターを利用した。将来的には,そのプロセスを同ImPACTプログラムで開発中のセレンディピターを用いて行なうことを想定している。セレンディピターにより,より多くの質の高い情報をユーグレナから取得して選抜に用いることで,さらに油脂を大量に含んだユーグレナをより高速かつ的確に選抜できる可能性があるという。

また,可視化方法を工夫することで,油脂含有量以外にもビタミン含有量の多いユーグレナなどの産業的に有用な特徴をもつユーグレナを選抜することが可能になるとしている。さらに,ユーグレナ以外の微細藻類にもセレンディピターの応用を検討することで,機能性成分やバイオ燃料の研究の加速も期待されるという。

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