北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)の研究チームは,グラフェン(炭素原子シート)膜を宙吊り構造にしたナノセンサー素子を開発し,グラフェン上に吸着する一個一個の二酸化炭素ガス分子を電気信号として検出することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
近年,シックハウス症候群に代表されるように,個人の生活空間レベルでの空気汚染に起因する健康障害が問題となっている。住居の高気密化が進み,様々な化学物質を含む建材やインテリア素材,家具,さらには日常生活用品などから発生する非常に希薄な化学分子ガスが,そこに生活する我々の健康に様々な悪影響を与えるようになってきた。
最近では,車の中でのシックカー症候群や学校でのシックスクール症候群なども問題化している。このような健康被害の患者数は未だ正しく把握されていないが,国内で百万人を超えると推定されている。
これらの生活空間汚染の原因となる化学ガスは,一般に濃度がppb(パーツ・パー・ビリオン,10億分の1)レベルと非常に希薄でm現在のガスセンサー技術で検出することは極めて難しい。
これに対して研究チームは,グラフェン膜を宙吊りにして,その表面に吸着した二酸化炭素分子を一個一個電気的に検出する新原理のセンサーデバイスを開発することに成功した。ppbレベル相当の非常に希薄なガス環境下でも,ガス分子を電界でグラフェン上に加速吸着させる方式を用いることで,高速な検出を実現した。
NEMS(ナノ電子機械システム)作製技術を用いて,半導体基板上に2層グラフェン膜の両持ち梁を斜めに形成し,基板から電界を印加することで,希薄なガスの分子をグラフェン梁上に引き寄せ吸着させた。グラフェン梁の電気抵抗をモニターした結果,分子一個一個がグラフェン表面に吸着・離脱したことを示す量子化(一定の値で抵抗が増減すること)した信号を検出した。
用いた二酸化炭素ガスの量は濃度換算で約30ppbに相当し,検出に要した時間はわずか数分。開発した素子は,従来の環境モニタリング装置に比べて3桁近い検出限界の向上を可能とするだけでなく,大幅な小型化,軽量化と低コスト化を可能にするものであり,パーソナルレベルでの環境センシング・モニタリング技術としての応用が期待されるという。
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