NTT,量子ドットとメカニカル振動子をハイブリッド

日本電信電話(NTT)は,高感度センサーや高精度発振器に広く用いられているメカニカル振動子と量子ドットを結合した新しい半導体素子を作製し,量子効果を用いた超高感度の計測手法を実証した(ニュースリリース)。

メカニカル振動子はMEMS (Micro-electromechanical Systems) 振動子として,センサーや発振素子などの微小素子として広く用いられている。このメカニカル振動子の振動を高感度に検出する手法は,重力波検出をはじめとした様々な極限実験における重要な要素技術であり,レーザ干渉計や超伝導素子などを用いた種々の方法が開拓されてきた。

MEMSや,さらにそれを微細化したNEMS (Nano-electromechanical Systems)は,集積化や多重化に優れたプラットフォームであり,光・電子デバイスとのハイブリッド化により,これまでとは全く異なる機能を持つ集積回路の実現が期待されている。特にメカニカル振動子と量子ドットに代表される半導体量子ナノ構造の融合は,量子効果を用いた超高感度の計測手法などへの応用が期待されている。

今回,振動が引き起こす「歪」に対して敏感に特性が変化する量子ドットをメカニカル振動子に組み込んだ新構造の半導体ハイブリッド素子を試作し,量子ドットの抵抗値の変化より,振動子の微細な動きを高感度に検出することに成功した。この結果は,半導体チップに集積可能な分子や磁気センサーの感度や機能を極限にまで高める可能性を有する手法として期待できるもの。

また,メカニカル振動子の振動特性が、量子ドット中の電子状態により大きく変化することも観測された。特に,量子ドットにより振動の増幅(Q値の向上)が見られた結果は世界で初めてで,電流によるメカニカル振動の増幅作用を実証したことに相当するという。

研究チームが結合動作の実現に成功したメカニカル振動子の心臓部は,長さ50µm,幅6µm,厚さ1µmの小さな板バネ。このメカニカル振動子は極めて軽量であるため,熱エネルギーによる熱振動が発生する。今回,量子ドットをメカニカル振動子に組み込むことにより,100mKという著しく低い温度における熱振動を検出することに成功した。

この時の最小検出変位は63fm/Hz0.5で,水素原子の直径の1000分の1以下という極めて小さいもの。また,量子ドットに閉じ込められた電子の状態によって振動子の共振特性が大きく変化し,Q値の増減,すなわち電流による振動の増幅や減衰が生ずることも明らかにした。

今回得られた振動の検出感度は,量子限界の約70倍にまで迫るもの。この検出感度を決めている要因は,素子の出力を測定する外部増幅器における雑音。今後はこの特性改善ならびに素子構造の最適化を行なうことにより,量子限界に至る超高感度計測技術の確立を目指す。

また,量子ドットによる振動の増幅効果は,その効率を上げることにより電気的にメカニカル振動を生成できる可能性を意味する。この効果を実証し,電流印加フォノンレーザーや,単一フォノン発生器などへの応用を目指すとしている。

関連記事「東大,世界最小量子ドットナノレーザの室温動作に成功」「産総研,量子ドットの発光が安定化するメカニズムを解明」「名古屋市大ら,水晶振動の観察に成功