理研ら,超伝導磁石の世界最高磁場を達成

理化学研究所(理研),物質・材料研究機構(NIMS),ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー,JEOL RESONANCE,千葉大学からなる共同研究グループは,超伝導磁石の世界最高記録となる27.6テスラの定常磁場の発生に成功した(ニュースリリース)。

コイル線材としてのビスマス系やレアアース系の高温超伝導ワイヤーは,従来の金属系低温超伝導ワイヤーでは到達できない超高磁場を小型のコイルで発生させるポテンシャルを持つ。この特性を活かし,金属系低温超伝導コイルの限界であった23.5 テスラ(水素核の核磁気共鳴周波数にして1ギガヘルツ)を上回る超高磁場NMR装置の開発が望まれている。

昨年,同研究グループのメンバーも参加し,ビスマス系高温超伝導コイルと低温超伝導コイルの組み合わせにより,1.02ギガヘルツ(24テスラ)の世界最高磁場NMRの開発に成功している。

今回共同研究グループは,高温超伝導コイル部分にビスマス系とレアアース系の2種類の高温超伝導ワイヤーを併用する新しいアプローチを試みた。この方式は,それぞれのワイヤーの物理的な特性を最大限活かして高磁場を効率よく発生させるもの。

この実現のカギとなったのは,高強度ビスマス系ワイヤーによる応力耐性が高いコイルと,ワイヤーの剥がれによる特性劣化を抑制したレアアース系ワイヤーのコイル,の2つの要素技術の開発。

このビスマス系・レアアース系併用高温超伝導コイルを,NIMSの17テスラの大口径低温超伝導コイルの中に設置した。まず低温超伝導コイルを,つぎに高温超伝導コイルを励磁した結果,ホール素子で計測された磁場は最終的に27.6テスラの定常値に到達し,韓国のグループの26.4テスラ,米国のグループの27.0テスラを上回る世界最高磁場を実現した。

共同研究グループでは最近,レアアース系ワイヤーを用いた中磁場のNMR磁石において,タンパク質試料の高分解能NMR測定に成功している。この技術と,今回開発した高磁場発生技術をさらに発展させることで,世界中で基盤研究開発が進められている1.2ギガヘルツさらには1.3ギガヘルツのNMR開発へ大きく近づくとしている。

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