産業技術総合研究所(産総研)と同志社大学の研究グループは,試料の複屈折の大きさやムラを定量的に可視化できる簡便な技術を開発し,高精度・高分解能の計測ができる小型の試作機を製作した(ニュースリリース)。
試料の複屈折の大きさやムラを可視化する機器は,機能性フィルムなどの品質管理や,各種材料の基礎研究開発の研究ツールとして広く用いられている。例えば,偏光顕微鏡は代表的な複屈折のイメージング装置だが,試料を回転させながら複数の画像を撮影して解析する必要があり,迅速な測定は難しい。
また,偏光の干渉を用いる方法も提案されているが,振動が多い環境では測定が難しいなど,製造現場での活用には課題があった。他にも種々の方法が提案されているが,各方式とも一長一短がある。そのため,より簡便・迅速で,高精度・高分解能のイメージングができる技術が求められていた。
この装置は観察光として空間的に一様な円偏光,例えば右回りの円偏光を用いる。この光が複屈折性を持つ試料を透過すると,その複屈折の大きさに応じて,円偏光が楕円偏光や直線偏光に変化する。そのため,試料に複屈折のムラ(分布)があると,試料を透過した後の光の偏光状態(偏光楕円率)は複屈折のムラ(分布)を反映して,透過した場所ごとに異なる偏光状態に変化する。
試料の後ろに配置された偏光分離回折素子は,右回りの円偏光と左回りの円偏光を異なる方向に振り分ける。そのため,試料を透過して偏光状態に分布が生じた光が偏光分離回折素子を透過すると,「偏光状態の分布」に応じて「“+1次光”や“-1次光”の像に強度の分布」が生じる。
そのため,光の明暗の分布が“+1次光”と“-1次光”のそれぞれの方向で観察される。なお,これらの二つの光強度の分布はちょうど明暗が反転したネガとポジの関係であるため,どちらか一方の光の強度分布をカメラで撮影すれば,試料の複屈折の2次元分布を定量的に直接観測できる。
今回開発した技術では,試料の回転や複数の画像撮影等の操作やデータ解析が不要なので,瞬時に定量的なイメージが得られる。そのため,これまで難しかった,様々な製品の製造現場でのインライン検査や,複屈折を示す物質の時間変化の観察やダイナミクス解析などが簡便に行なえるという。
今回用いた偏光分離回折素子は,これまでよりも回折効率が高くなるよう改良されているため,計測可能な複屈折量が位相差として最小約1 °(観察光が可視光の場合,リターデーションとしては1~2nm)まで向上し,市販の複屈折分布測定装置と同等の精度が達成されている。
例えば,厚さ100μmのフィルム状試料で検出できる最小の複屈折値としては2×10-5に相当するが,この値は多くの品質管理用途には十分な性能。また,素子のサイズを2倍強まで大きくしたことにより,空間解像度は10μm程度にまで向上した。
試料の回転が不要で,1枚の写真撮影で定量的な複屈折データを得ることができ,振動のある環境での使用にも強く,時間変化の追跡や動画撮影に対応できるなど,この装置が持つ種々の特長を生かし,従来法では難しかった製造現場でのインライン計測や実験室での材料研究・開発の新しいツールとしての実用化が期待できるとしている。
特に,各種光学フィルム・包装材・繊維・プラスチック成形品の製造ライン,食品・製薬分野,プリンテッドエレクトロニクスなどの研究現場,さらには,生体組織・微生物・バイオマテリアル等の新しい可視化ツールとしての活用が期待されるという。
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