理研ら,整数量子ホール効果を高温・弱磁場で実現

理化学研究所(理研)と東北大学らの共同研究グループは,新物質のトポロジカル絶縁体「(Bi1-xSbx2Te3」薄膜上に磁性元素のクロム(Cr)を添加した層を積層させることで,エネルギー損失が極めて小さい電流が流れる「整数量子ホール効果」を従来より高温・弱磁場で実現し,トポロジカル絶縁体の表面ワイル状態の制御に向けた新しい設計指針として有効であることを実証した(ニュースリリース)。

トポロジカル絶縁体は,内部は電流が流れない絶縁体状態だが,表面は金属状態の物質。この表面の金属状態には,ワイル電子が存在し,これをワイル状態と呼ぶ。強磁場を加えると,金属表面のワイル状態のエネルギーが量子化し,試料の端にエネルギー損失の小さい電流が流れる「整数量子ホール効果」が現れる。

また,Crを添加した磁性トポロジカル絶縁体では,磁場を加えることなく同様の量子ホール効果「異常量子ホール効果」が現れる。これらはエネルギーをほとんど使わずに電気伝導が可能なことから,低消費電力素子への応用に向けた研究が活発化している。

しかし,上記2つの量子ホール効果を実現するには,温度を極めて低くする必要があるため,改善に向けた設計指針が求められている。

研究グループは,トポロジカル絶縁体の1つ「(Bi0.12Sb0.882Te3」(Bi:ビスマス,Sb:アンチモン,Te:テルル)の薄膜上にCrを添加した磁性トポロジカル絶縁体「Cr0.2(Bi0.12Sb0.881.8Te3」を積層させた,トポロジカル絶縁体積層薄膜の作製法を確立した。

これを用いて電界効果型トランジスタ構造を作製し,試料内部の電子数を少しずつ変化させながらホール抵抗を測定したところ,積層構造を使わないトランジスタに比べ10倍高い温度(50ミリケルビン→500 ミリケルビン)と,2分の1という弱い磁場(14 テスラ→7 テスラ)でホール抵抗が量子化抵抗値(約 25.8kΩ=h/e2)で一定となり,整数量子ホール状態になっていることを確認した。

今回の成果により,トポロジカル絶縁体を適切に積層することで,表面ワイル状態の量子化を単一層で報告した従来の結果よりも高温・弱磁場で観測可能となることが示された。非磁性トポロジカル絶縁体と磁性トポロジカル絶縁体を積層させるというシンプルなアイデアで大幅な機能向上を実現できるこの手法は,トポロジカル絶縁体素子開発における新しい設計指針となるという。

今回の発見では量子ホール状態の実現には磁場が必要だったが,今後この原理が改良されることで,磁場を加えない状態でもより高温で動作する低消費電力素子への展開が期待できるとしている。

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